追憶ソルシエール
建物の影から気まずそうに顔を出したのは、サッカー部のユニフォームを着た凌介くん。頭にはヘアバンドを付けていて、苦笑いを浮かべながらこちらに向かって歩いてくる。ついさっき「あ、」と声を漏らしていたのも凌介くんだ。
学校内には何ヶ所かに自販機が設置されているけれど、部活中の今、グラウンドから一番近いのはこの中庭。ちょうど、わたしの横にある。
「いつからいたの?」
「んー、ずっと好きでした、あたりかな」
「それもう最初だよ」
「ははっ、そうなんだ」
自販機に小銭を投入しながらわらう。
そして迷わずサイダーを押すと、ピッと機械音が鳴って、ガタゴトと音を立てて落ちてくる。
「世莉ちゃんもなんかいる?」
屈んでサイダーを取り出しながら、上目で訊ねられる。
「じゃあ、りんごジュースいい?」
「りょーかい」
さっきと同じ要領でりんごジュースを買って手渡してくれる凌介くんにお礼を言い、自販機横に設置されたベンチに腰掛ける。凌介くんがペットボトルのキャップを開けると、炭酸が弾ける爽快な音が聞こえた。早速サイダーを飲んでいる。
「それ、いつも付けてるの?」
ヘアバンドを見れば、ペットボトルから口を離した凌介くんは「あー、これ?」と目線を上に向けたあと自分の頭を指さした。
「部活中だけだけどね。最近髪が目にかかって邪魔だったから」
普段の凌介くんの髪は軽く目にかかるくらいの長さ。たしかに、サッカーをするには視界も塞がれて練習に支障が出てしまうかもしれない。