追憶ソルシエール
「だってほんとにそうだったし」
「だってじゃ、」
「岩田だけだよ」
遮られた言葉。西野くんが放った言葉の主語はなく、何を意味しているのかはわからない。
なにが?聞き返そうと口を開いて、
「今までで好きになったのも付き合ったのも、岩田だけ」
別にこれは言わなくてもいいこと。わざわざわたしが知る必要はなかった事実。けれど、知ってしまった以上は知る前に戻ることはできない。
中学校を卒業してから、西野くんがどんな生活を送っていたのかなんて知らない。毎日健康に過ごしていたのか。友達はたくさんいるのか。部活には所属しているのか。バイトはしているのか。彼女はいるのか。
「なんか言ってよ」
「……なんかってなにを」
「岩田が先にこの話題ふってきたじゃん」
「わたしそこまで聞いてないよ。西野くんが勝手に話してきたんじゃん」
「わー、そんなこと言う?」
突然そんなことを言われたら戸惑うに決まっている。どんな反応をすればいいのかわからない。ただ感情に身を任せるしかない。
「西野くんは」
「なに?」
「西野くんは、なんて言おうとしてたの」