追憶ソルシエール
まだ数えるほどしか以前と変わった箇所を見つけることができていない。この数年の間で変わったことは、きっとわたしが知らないだけでもっとたくさんある。今と比べて中学時代を振り返るのは新たな発見ができておもしろい。その反面、思い出したくない記憶ごと引っ張ってきてしまう。
「あ、」なにか思いついたように呟いた彼はこちらを向く。
「でも、笑った顔は変わってない」
「わたし西野くんの前であんまり笑ってない気がする」
「この前笑ってくれたじゃん」
「でもそのときだ……」
「かわいかった」
最後までいい切る前に遮られた。幻聴のように聞こえたそれに、思わず口を半開きにしたまま凝視してしまう。
「……意味、わかんない」
確かに言った。西野くんはわたしの笑顔をかわいいと、そう言った。動揺と、緊張と、よくわからない感情で頭と心がいっぱいになる。早く電車が来ないか。一分一秒が長く感じてこの時間が早く過ぎ去ってほしい。
「今も昔も岩田はかわいい」
真っ直ぐ見つめられて、逸らすことさえできない。まるで、雨の日に再会したときのような状況だ。
中学生の頃に戻ったような気持ちになる。あのころはひとつひとつの言葉を紡いで自分の気持ちを伝えることにぎこちなさがあった。いま思えば初々しかった。西野くんの言葉に一喜一憂して振り回されているのは今も変わっていないらしい。それでも、真に受けてはいけない。
「なんなのほんとに……」
やっとの思いで声が出せたのは、電車が来るアナウンスが聞こえたあと。
西野くんの発言に深い意味はない。ただ、面白半分でからかっているだけだ。そう思い込むことで落ち着きを取り戻した。