追憶ソルシエール
お風呂上がりのこと。自室へ戻ってベッドに座る。生乾きの髪の毛をタオルで拭きながらスマホを手に取れば、数分前に着信をお知らせする通知が画面に映し出されていた。
「世莉ちゃん?」
数回のコール音のあと、無機質な機械の向こう、いつもより少し低くなった機会を通した凌介くんの声が聞こえる。
「ごめんね遅くなっちゃった」
「いや俺は全然大丈夫だよ」
「なんの用だった?」
ベッドにゴロン、と寝転がり用件を訊ねれば「あー、」と間延びした声。凌介くんから電話がくるなんて珍しい。まだ数えるほどしか電話したことない気がする。なんだろうかとそわそわしながら続きを待っていれば、「あのさ、」と凌介くんは言う。
「金曜日の放課後空いてる?」
「金曜日? ちょっと待ってね」
「んー」というくぐもった返事を耳に、電話からカレンダーアプリへと切り替える。2日後の金曜日の予定を確認すれば、出かける予定もバイトの予定も特になし。
「もし予定なければ、部活オフだったからデートでもどうかなーって」
「え、行きたい!」
空いてると返事する前に伝えられた用件。飛び上がって即答すれば、くすくすと電話越しにわらう声がする。