追憶ソルシエール

「じゃあ佐田待たせると悪いから行きな。せっかくのデートなのにあたしのせいで時間取られて怒ってるかも」

「凌介くんそんなことで怒らないよ」

「だろうね」


怒った凌介くんを頭に思い浮かべても、全くといっていいほどイメージが湧かずにくすりと笑ってしまった。









「凌介くんって、怒ったことあるの?」


トイレで那乃と分かれて教室に荷物を取りに戻れば、ちょうど凌介くんが教室まで迎えに来てくれた。



ホームルームが長引いて遅れたことに謝る凌介くんに「わたしもちょうど準備できたところだったから気にしないで」と伝えれば「よかった」と微笑んだ。



ふたりで廊下を歩いている途中、先程の台詞を口にしたら「突然だね」と凌介くんは目を丸くした。



「俺だって人間だから怒ることくらいあるよ」

「そりゃそうだよね。でもなんか、安心した」

「安心?」


復唱する凌介くんに、うん、と頷いた。



「凌介くんが来る前那乃と話しててね、そのときわたしたち教室にいなかったから、凌介くん待たせたら怒るんじゃない?って那乃が冗談で言ってたんだけど、そういえば凌介くんが怒るところ見たこともないし想像もできないなーと思って」

「んー、たしかに日常生活でムカついたりすることは少ないかも」

「人間離れしてるんだね。もはや神の領域、みたいな」

「ははっ、なにそれ。世莉ちゃんときどき変なこと言う」
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