追憶ソルシエール
変ってなに、とむくれれば、ごめんね、と赤ちゃんをあやすかのようにやさしい口調で謝ったあと、歩く度に微かに触れては離れてを繰り返していた右手は凌介くんの手のなかに包まれた。
隣を見上げて目が合って、「ん?」と首を傾げる凌介くんに「ううん」と首を横に振る。
目の前の赤信号で立ち止まるとほぼ同時に「今日さ、」と凌介くんは口を開いた。
「ゾンビに追いかけられる夢見て目覚め良くなかったんだけど、放課後世莉ちゃんとデートだしって思ったらどうでも良くなった」
「え、ゾンビ?」
「そう、しかもめっちゃ大量にいる。数え切れないくらいのゾンビから逃げてた」
「えーなにその夢。おもしろそう」
ポロリと零した感想に「え?」と疑いの目を向けられた。綺麗な目をぱちくりさせる凌介くんに、「青になったよ」と告げて歩き出す。半歩遅れて足を進める凌介くん。若干わたしが凌介くんを引っ張って歩いているみたいだ。
「いま世莉ちゃんおもしろいって言った?」
「うん、わたしホラー映画とか好き」
「えー……初めて知ったんだけど。世莉ちゃんそういうの苦手そうじゃん」
「そう? ホラー特集の番組とかもたまに見るよ。今もたしかホラー映画上映してた気がするけどそれ見る?」
「絶対やだ。見るなら佐藤さんと観てね」
「那乃ホラー苦手なの。前誘ったけど断られちゃったもん」
「それもなんかイメージと違う」