追憶ソルシエール

「えっ、と、覚えてないです……」


正直な気持ちを伝えれば、途端にしゅん、と項垂れる。その拍子に手の力が抜けたようで両手が解放された。わかりやすい。わかりやすすぎる。感情表現が豊かすぎる。



「ご、ごめんなさい」

「なんで世莉ちゃんが謝るの」

「なんか悲しませちゃったみたい」


わたしもよくわからない。どうしてこんなにしょぼんとしているのか。隣から凌介くんに突っ込まれて会話している最中も下を向いていて床を見つめているよう。もはや怖い。



「あの、でも、いま覚えたので、」


そう言うやいなや、ぱあああっと花が咲いたように表情が明るくなる。喜怒哀楽が激しい人らしい。

一度会話したら忘れないだろう。なんていったってインパクトが強すぎる。



「えっ、うれしい! よろしくね!俺、谷川日向って言います! てかさっきも自己紹介した──」


不意に言葉が途切れ、いてっ、という声が上がる。どうやら凌介くんが谷川くんの頭を軽く叩いたらしい。



「なにすんのっ!」

「日向はしゃぎすぎ。世莉ちゃんびっくりしてるから」

「え? そう? 天使ちゃんびっくりさせちゃった? ご、ご、ご、ごめんなさい!!」

「いえいえいえいえ……」



ものすごい勢いで頭を下げられる。通り過ぎる人から何事かとチラチラと視線を感じるけど、当の本人は気にも止めていないよう。気づいてすらいないのかもしれない。
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