ある忘れ去られた世界のお話
世界を旅立つ君へ
「さよなら…」

君が言う。

ずっと僕のそばにいてくれた君は、今日この世界を飛び立つ。

何もない、砂ばかりに変わっていったこの星。
管理された気候、天気にも関わらず、絶滅した“らしい”微生物や生物のおかげで、生き返ることなく『死んだまま』の地。

その星を捨て、ほとんどの人間や生き残っていた生き物が、別の星で生き延びていくために旅立つ最後の便が今……


「……最後まで、あなたらしく生きて…あなたの『先生』が言っていたように……」

そう言った君に向かって、僕は今笑っているだろうか?

「…君こそ、長生きをしてね…」

僕の口にした言葉を聞くなり、君は顔に手を当てた。

「…!!あなたといたかった……なぜあなたは残るの…!?私だって、あなたといたかったのに…!!ここにいたらあなたは…!!私と一緒に…」

溢れる感情を抑えきれなくなったらしく、君は、僕を見ることも出来ずに言葉を走らせ、詰まらせた。

「決めたんだ。僕には使命がある。きっともう、僕にしか出来ない。だから僕はここに残るんだ。」

僕はきっぱりと言う。
君と今別れることが、永遠の別れを意味するとしても。

「…酷いやつだと思ってくれていい、忘れてくれていい…。君よりも『先生』との約束を取るんだから……」

「…。」

君は顔を手で抑えたまま沈黙した。


『君は私の大切な教え子です…。捨て去られ、忘れられていくこの星を、君はどうか見捨てないで…。最後まで人間らしく、生きて下さい……』

そう言っていた、亡くなった恩師と交わした大切な約束。
これは僕にしか出来ないことだと、僕たちがこの世界を愛していた証を残すことだと信じていた。

「…酷い人…私より、先生を……」

絞り出すようにやっと出てきた君の言葉。

「…絶対に、忘れてなんかあげないから…!!」

そして続けて出てきた、残酷で優しいその言葉。

この星にいたら、長くなど生きられない。
それなのに…

「……。」

今度は僕が黙る番だった。

君がゆっくりと顔を上げる。

「…生きて…!絶対に、諦めちゃだめ……!!約束よ…!!」

しばらくぶりに見た、君の満面の笑顔。涙にまだ濡れたまま、僕との未来の希望を繫ぐように…

僕はそれだけで救われた気がした。

「ああ!!諦めないよ!それに、やり遂げる、絶対に…!!」

「またいつか、あなたに逢うの…!約束…!!」

また泣きながら必死に笑おうとする君の姿。

「いい世界で、出逢えるように祈るよ…!!」

君の好きだった僕の笑顔は、ちゃんと君に見えているだろうか?
この星を旅立つ君のために…

この世界に、この星に別れを告げる君のために…

「また、ね…!!」

また逢うのなら、さよならはいらない…

「ああ…!!」


君を乗せた船は、未来を生きるための理想郷を目指して宇宙《そら》へ。

いつかいつか、この世界が生き返るよう、君にまた逢えるよう僕は祈るから……
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