君と同じ世界を見れるまで
君と僕
「僕と付き合って下さい」
勇気を振り絞りクラスメイトの佐野遥香に告白した。少し戸惑いを見せた彼女だったが、
「少し考えてみます」
と、言ってその場を去った。佐野遥香は明るく元気で笑った時に現れるえくぼが愛らしい笑顔を生み出した。その笑顔に僕は惚れた。それだけじゃない。彼女は誰にでも優しく接する。いつも笑顔を絶やさず友達の気持ちに寄り添い、泣くときは一緒に泣いて、悲しむときは一緒に悲しむ。そんな姿に僕は惚れた。僕には到底叶わない人だが、優しい彼女なら受け入れてくれると思った。次の日。僕は放課後の屋上に呼び出された。空は朱色に染まっていた。そこに彼女。佐野遥香はいた。彼女は振り返ると満面の笑みを浮かべ
「お願いします!」
と元気よく言った。その笑みにもまた愛らしいえくぼがあった。俺は思わず笑みを浮かべ彼女に抱きついた。一瞬戸惑った彼女だったが、僕の背中に手を回し抱きしめ返した。体に温もりを感じた。そして僕たちは解散した。
「おっはよ!」
次の日。元気な声で遥香だとわかった。満面の笑みで挨拶された。
「おはよ」
僕も満面の笑みで返したつもりだったが、彼女の元気には届かなかった。
「どしたの?元気ない?」
彼女は下から僕の顔を覗いた。容赦ない接近に僕は少し顔が赤らんだが、そのことは気にも留めずに顔を近づけてくる。
「…別に、なんにもないよ」
と言って少し彼女から離れた。そしたら彼女は少しむっとした顔をして
「なんで離れちゃうの…」
と、少し寂しそうに言った。
「ごめん、ごめん、恥ずかしくって、あはは…」
ぎこちなく誤魔化すと
「へぇ」
と言ってその場を離れて行った。僕は少し罪悪感を抱いた。でもまた彼女の笑顔を見たらそんな事は忘れてしまった。昼休み。お弁当を一緒に食べようと誘われた。場所はもちろん屋上。僕たちの始まりの場所だ。
「え!お弁当すご!手作り?」
「いや。母さんが作ってくれてるよ」
「え!お母さんすごいね!唐揚げ一個ちょうだい!」
そう言って母さんの手作り唐揚げをねだってきた。
「しょーがないな。やるよ」
「やったぁ!じゃもらいます!」
彼女は僕の弁当から唐揚げを一つ取り、口にほおばった。
「あっふ。へも、うまい!」
よくわからない言語を言いながらも、美味しいということがわかった。
「おい。口の中に食べ物入れながら喋るなよ。きたねーな」
「あはは、ごめんごめん。つい美味しくて…」
「はぁ」
僕がため息を吐くと、彼女はもぉ!と言ってそっぽを向いてしまった。でも、しばらくたったらむっ、とした顔のままこちらを向いてお弁当にあった卵焼きを一つ取ってたべた。
「あ!それ僕の卵焼きだぞ!」
「ふふふ。あーげない!」
はぁ。もうため息が止まらなくなりそうだ。遥香が卵焼きを食べたせいで、僕の大好きな卵焼きが弁当からなくなった。食べたかったな…。
「もぉ…なんでそんな顔するのぉ…もうしょーがないな、はい」
「……っ」
彼女は僕の口にたこさんウインナーを突っ込んだ。
「ちょっと!何してんだよ」
「だって卵焼き食べちゃったから…お返し的な?」
はぁ。お返しと言っても。母さんの卵焼きの味には届かなかった。母さんの卵焼きの方が何倍も美味しい。でもたこさんウインナーなんていつぶりだろう。懐かしい味がした。
「もう。次食べたら許さないからな」
「はーい。反省していまーす」
反省しているのかしていないのかよくわからない返答をされた。まぁでも、可愛いかったしたこさんウインナー美味しいかったから、許すことにした。その後も中身のない話をしながら昼休みが終わった。5時間目は歴史だった。歴史の授業は正直言ってつまらない。ふと彼女の方を見ると目が合った。すると彼女は僕に向かって手を振った。僕は振り返した。すると何がおかしかったのか彼女はくすっと笑った。僕が首を傾げるとまた彼女はくすっと笑った。僕はその笑顔に惹かれ笑ってしまった。その後の授業は着々と進んだ。たまに彼女の方を見ると机に突っ伏して寝ていた。そんな姿が可愛くて少し笑ってしまった。そんなことをしていたらいつの間にか授業が終わっていた。帰り彼女に
「途中まで一緒にかえろ!」
と、言われ、その元気さと声の圧で拒否せざるを得なかった。帰り道。彼女がいるだけでいつもと少し違う。いつも寂しかった僕の帰り道が少し明るくなった。
「ねぇ。遥香ってさ、なんでいつも笑顔なの?」
何気なく聞いた。
「ん?なんでかって?う〜ん…ひみつ!」
彼女らしかった。
「そうだと思ったよ」
「なにそれ〜私のこと信じてないみたい」
「すまんすまん。お前らしいな〜って」
「ふぅ〜ん」
と、ビミョーな返事をされた。
「そーいえばさなんで私のこと名前で呼んでくれないの?」
え、そんな事考えたことなかった。なんとなくって、感じだけど、そんなこと言ったら彼女は怒るだろう。
「う〜ん。分かんない」
「分かんないなら名前で呼んでよ!」
少し顔を近づけて言った。彼女は少し怒って見えた。
「いや〜ごめんな“遥香”」
「ふふっ。やっぱ直接言われると照れるね」
彼女は顔を少し赤らめてえへへと言いながら頭を掻いた。空はいつのまにか朱色に染まっていた。まるであの屋上みたいだった。
「すごい夕焼け〜!綺麗だね!」
君のほうが綺麗だよ。と言いかけたがやめた。「ねぇ。もう一回はぐして」
急だった。まるであの時を思い出すかのようだった。僕はしょーがないな。と言いつつも僕は彼女を強く抱きしめていた。あの時と同じ温もりだった。
「大好き」
「僕も」
そのまま僕たちは互いに強く抱きしめ合った。そしたら彼女が僕の胸部に顔を埋めた。というより突っ込んだ。一瞬びっくりしたが、僕もすかさず彼女の頭に顔を埋めた。ほのかに花の香りがした。
「ふふ。いい匂いする」
まるで僕の心情をそのままナレーションするかのように、彼女が言った。
「お前もだよ」
彼女はまたくすっと笑って僕の服に顔を擦り付けた。
「ちょ。やめろよ。くすぐってぇよ」
「あはは。ごめんごめん。つい」
そう言って彼女は舌を出した。そして僕は仕返しに彼女の頭に顔を擦り付けた。
「ん!何してんのぉ!髪の毛ぐしゃくじゃになるでしょ!」
彼女は頬をフグみたいに膨らませて、怒ったようだった。
「ごめんごめん、遥香の真似したんだよ」
「もぉ。やめてよね」
「はは、ごめんごめん」
「もぉーーーーーー」
「ちょ、やめろよ」
彼女はもぉーーーーーと言いながらまた、僕の胸部に頭を擦りつけた。
「ふふしっ返し♪」
はあ。僕の服までぐしゃぐしゃだ。僕はふとその辺にあった時計を見た。その時計は4:30分をとっくに過ぎていた。
「やっば。もう四時半じゃん。バイトの時間だ。じゃあな。遥香」
「うん。じゃあね…」
少し悲しそうに彼女は言った。
こんな楽しい毎日がずっと続いて欲しかった。でも、その願いは叶う事はなかった。
次の日。彼女は学校に来なかった。先生によると体調を崩したらしい。今日の教室は、やたら静かだった。やっぱりいつも騒がしいクラスが静かになると少し違和感を感じる。いつもはもっと静かに授業したいと思うのに今日はもっと騒がしくして欲しいと思っている。はぁ。いつもより授業が長く感じる。やっぱり彼女は偉大だ。
家に帰ってすぐ彼女に連絡した。
《体調大丈夫?》
返事はすぐに来た。
《ごめんごめん。心配しちゃった?ただの風邪だから心配しないで大丈夫だよ!》
僕は大丈夫だと思わなかった。いや、大丈夫だと思いたくても思えなかった。昨日もあんなに元気だったし、彼女はいつも笑顔だ。明日は来て欲しいと思った。願うしかなかった。次の日も、彼女は休んでいた。誰も話しかけてこない中休み。静かな授業。一人で食べるお弁当。一人の帰り道。一昨日と全て違う。これはきっと一昨日のが日常だと勘違いしてしまっているからだと思う。あんなの偶然に決まっているのに。たまたまに決まっているのに…。帰り道一昨日はぐしたところに来た。今日も夕焼けが綺麗だった。目の奥になにか熱いものを感じた。僕は泣いてはいけないと思って上を向き目に力を入れた。でもそれを防ぐ事はできなかった。初めての感情だった。恋なんてしたことない僕には分からない感情だった。
それから1週間彼女は学校に姿を現さなかった。今日食べたお弁当にはあの卵焼きが入っていた。今日は食べることができたが、どこか寂しい気がする。体は自然と屋上に向かっていた。彼女を思い出すためだろうか。彼女のことが忘れられないためか。僕にはわからなかった。帰り道。今日は夕立だった。一人、ビニール傘をさし、寂しく帰る。これは彼女が来なくなってからずっとそうだった。心のどこかに彼女がただの風邪ではないと疑う自分がいた。どこか彼女を信じることができない自分が…。
その的中してほしくなかった予想は当たってしまった。
彼女からメッセージが来た。
≪今から電話してもいい?≫
急だった。放課後、家に帰って読書を楽しんでいるところだった。どこか彼女のことを思いながら。僕は彼女からのメッセージを待っていたのかもしれない。きっと待っていたのですぐさまいいよ。と返した。すると電話は直ぐにかかってきた。着信音が部屋中に鳴り響く。僕は電話に出た。どうしてこんなに電話に出るのに躊躇ったかというと、何か嫌な予感がしたからだ。僕のこうゆう勘は当たることが多いからだ。電話に出ると彼女は僕の予想通り一言目にしては重い言葉を発した。僕の勘は的中してしまったのだ。
『あのさ、大事な話があるの。今時間ある?』
僕はこういう話が苦手だ。一対一で何か重い話をするのが。二人で話すと相手の言葉がそのまま自分だけに突き刺さる。複数人と話している時と違って、言葉は研ぎたての尖ったまま僕の心に刺さる。それがとても痛い。でも二人だと誤魔化すことも許さず話が進む。でも、大事な話ならしょうがない。
「うん。あるよ。どした?」
勇気を出した。
「ありがと。えっと…、すごく言いにくいんだけど…私さ…」
いつもの元気な彼女の声とは違って、ガチトーンな気がした。一応説明しておくとガチトーンとはそのままガチなトーンってことだ。ガチトーンのときは大体やばい。僕の経験がそう語ってる。
「どした?早く言えよ」
正直、言ってほしくなかった。でも焦りのあまり言ってしまった。そして彼女を焦らせてしまった。
『あ…そーだよね、早く言って欲しいよねごめんね…。ゔうん。改めて言います。えと、私実はね…』
この後は嫌でも聞きたくなかった。でもそんなことをしたら彼氏失格だ。僕は改めて覚悟をして聞いた。
『実は“病気”なんだ…』
僕はその一言に絶望した。
「…えっ…」
思わず声を出してしまった。
『はは、そうだよね。急に言われても納得できないよね。私も言われた時は絶望したよ。一夜泣いたよ。でもさ私の気づいちゃったんだよね。絶望してたって、泣いてたって、未来は変わらないし、病気も治るわけではない。だからさ、君にも受け入れて欲しいんだ。時間かかってもいいから。ごめんね。言うの遅くなって。勇気が出なかったんだ。でも言えてよかった』
彼女の冷静さに僕は少しばかり驚いた。今すぐ彼女に会って抱きしめてやりたい。慰めてやりたい。一人で抱えて辛かっただろうな。
「うん…わかった…」
『ふふ。ありがとぉ。でもね、私の病気、死ぬわけじゃないんだ。どんな症状がでるかわからないけど、死ぬことはないって。よかった』
彼女は少しほっとしたように言った。僕もほっとした。彼女の命に別状がないならよかった。
「よかったよ。お前が死ななくて」
ついでた言葉に彼女は、そう言ってくれてうれしいと言いながら笑った。
『1週間休んだのは検査のためなんだ。でも検査しても何も異常はなくて…。でも検査入院のときに急にお腹痛くなったり、頭痛くなったり、吐き気がしたりしたんだ。だから、何かはあるの。でも何があるのかは分からないんだ。怖いよね…』
僕はそんな深刻な病気なのにそんな冷静に話せる君が怖いよと言おうとしたが、やめた。
「ねぇ。今会える?」
思わず言ってしまった。
『え…』
戸惑わせてしまった。何やってんだ僕。
「あはは。ごめんごめん。冗談だよ。」
苦笑いしながら言った。彼女は今きっと病院だ。そんな会えるわけないよな。僕のばか。
「あえるよ。てか、あいたい。〇〇病院に来て」
彼女のガチトーンは今も続いていた。僕は今すぐ彼女に伝えられた病院に向かった。家からバスを乗り継いで30分くらいのところにあるでっかい市民病院だ。ここらじゃ有名だったので、道はわかった。バスの座席に座ると僕の心臓の鼓動が聞こえた。自分のことではないのに…。鼓動はとっても早く打っているもしかしたら今日、人生で限られてる鼓動の数を超えて死んじゃうんじゃないかってくらいだった。僕はその鼓動を聞きながら病院に着くのを待った。
病院に着き、軽く手続きを終わらせて彼女の病室に向かった。彼女がいる病室には他に誰もいなかった。
〔213 佐野遥香〕
はぁ。僕は軽くため息を吐いた。大きく深呼吸し気持ちを落ち着かせ、入り口のドアを開いた。
「おはよ!ふふ。来てくれてよかった。」
電話のトーンとは全く違う彼女に少し驚いたが、彼女のひまわりのような笑顔を見るとそんなことは忘れてしまった。
「大丈夫なの?遥香。お前病気なんだよな。」
心配している僕とは裏腹に彼女はいつも通り元気よく答えた。
「うん!全然大丈夫!」
お前さっきのガチトーンはなんだったんだよ!と、心の中でツッコミを入れる。目の奥で熱いものを感じた。あの時と同じだ。一人の帰り道。寂しかった。辛かった。これを恋だと感じた。僕は涙を抑えるために上を向いた。
「どうしたの?泣いていいよ。私も嬉しい。」
と、いって満面の笑みを浮かべた。その目は少し輝いていた。僕はいつもの彼女見て目から涙が零れ落ちた。僕は彼女を抱き寄せ温もりを感じた。彼女も僕の後ろに手を回し抱き寄せた。彼女は涙を拭いながら、ありがとう…。と言った。
「僕と付き合って下さい」
勇気を振り絞りクラスメイトの佐野遥香に告白した。少し戸惑いを見せた彼女だったが、
「少し考えてみます」
と、言ってその場を去った。佐野遥香は明るく元気で笑った時に現れるえくぼが愛らしい笑顔を生み出した。その笑顔に僕は惚れた。それだけじゃない。彼女は誰にでも優しく接する。いつも笑顔を絶やさず友達の気持ちに寄り添い、泣くときは一緒に泣いて、悲しむときは一緒に悲しむ。そんな姿に僕は惚れた。僕には到底叶わない人だが、優しい彼女なら受け入れてくれると思った。次の日。僕は放課後の屋上に呼び出された。空は朱色に染まっていた。そこに彼女。佐野遥香はいた。彼女は振り返ると満面の笑みを浮かべ
「お願いします!」
と元気よく言った。その笑みにもまた愛らしいえくぼがあった。俺は思わず笑みを浮かべ彼女に抱きついた。一瞬戸惑った彼女だったが、僕の背中に手を回し抱きしめ返した。体に温もりを感じた。そして僕たちは解散した。
「おっはよ!」
次の日。元気な声で遥香だとわかった。満面の笑みで挨拶された。
「おはよ」
僕も満面の笑みで返したつもりだったが、彼女の元気には届かなかった。
「どしたの?元気ない?」
彼女は下から僕の顔を覗いた。容赦ない接近に僕は少し顔が赤らんだが、そのことは気にも留めずに顔を近づけてくる。
「…別に、なんにもないよ」
と言って少し彼女から離れた。そしたら彼女は少しむっとした顔をして
「なんで離れちゃうの…」
と、少し寂しそうに言った。
「ごめん、ごめん、恥ずかしくって、あはは…」
ぎこちなく誤魔化すと
「へぇ」
と言ってその場を離れて行った。僕は少し罪悪感を抱いた。でもまた彼女の笑顔を見たらそんな事は忘れてしまった。昼休み。お弁当を一緒に食べようと誘われた。場所はもちろん屋上。僕たちの始まりの場所だ。
「え!お弁当すご!手作り?」
「いや。母さんが作ってくれてるよ」
「え!お母さんすごいね!唐揚げ一個ちょうだい!」
そう言って母さんの手作り唐揚げをねだってきた。
「しょーがないな。やるよ」
「やったぁ!じゃもらいます!」
彼女は僕の弁当から唐揚げを一つ取り、口にほおばった。
「あっふ。へも、うまい!」
よくわからない言語を言いながらも、美味しいということがわかった。
「おい。口の中に食べ物入れながら喋るなよ。きたねーな」
「あはは、ごめんごめん。つい美味しくて…」
「はぁ」
僕がため息を吐くと、彼女はもぉ!と言ってそっぽを向いてしまった。でも、しばらくたったらむっ、とした顔のままこちらを向いてお弁当にあった卵焼きを一つ取ってたべた。
「あ!それ僕の卵焼きだぞ!」
「ふふふ。あーげない!」
はぁ。もうため息が止まらなくなりそうだ。遥香が卵焼きを食べたせいで、僕の大好きな卵焼きが弁当からなくなった。食べたかったな…。
「もぉ…なんでそんな顔するのぉ…もうしょーがないな、はい」
「……っ」
彼女は僕の口にたこさんウインナーを突っ込んだ。
「ちょっと!何してんだよ」
「だって卵焼き食べちゃったから…お返し的な?」
はぁ。お返しと言っても。母さんの卵焼きの味には届かなかった。母さんの卵焼きの方が何倍も美味しい。でもたこさんウインナーなんていつぶりだろう。懐かしい味がした。
「もう。次食べたら許さないからな」
「はーい。反省していまーす」
反省しているのかしていないのかよくわからない返答をされた。まぁでも、可愛いかったしたこさんウインナー美味しいかったから、許すことにした。その後も中身のない話をしながら昼休みが終わった。5時間目は歴史だった。歴史の授業は正直言ってつまらない。ふと彼女の方を見ると目が合った。すると彼女は僕に向かって手を振った。僕は振り返した。すると何がおかしかったのか彼女はくすっと笑った。僕が首を傾げるとまた彼女はくすっと笑った。僕はその笑顔に惹かれ笑ってしまった。その後の授業は着々と進んだ。たまに彼女の方を見ると机に突っ伏して寝ていた。そんな姿が可愛くて少し笑ってしまった。そんなことをしていたらいつの間にか授業が終わっていた。帰り彼女に
「途中まで一緒にかえろ!」
と、言われ、その元気さと声の圧で拒否せざるを得なかった。帰り道。彼女がいるだけでいつもと少し違う。いつも寂しかった僕の帰り道が少し明るくなった。
「ねぇ。遥香ってさ、なんでいつも笑顔なの?」
何気なく聞いた。
「ん?なんでかって?う〜ん…ひみつ!」
彼女らしかった。
「そうだと思ったよ」
「なにそれ〜私のこと信じてないみたい」
「すまんすまん。お前らしいな〜って」
「ふぅ〜ん」
と、ビミョーな返事をされた。
「そーいえばさなんで私のこと名前で呼んでくれないの?」
え、そんな事考えたことなかった。なんとなくって、感じだけど、そんなこと言ったら彼女は怒るだろう。
「う〜ん。分かんない」
「分かんないなら名前で呼んでよ!」
少し顔を近づけて言った。彼女は少し怒って見えた。
「いや〜ごめんな“遥香”」
「ふふっ。やっぱ直接言われると照れるね」
彼女は顔を少し赤らめてえへへと言いながら頭を掻いた。空はいつのまにか朱色に染まっていた。まるであの屋上みたいだった。
「すごい夕焼け〜!綺麗だね!」
君のほうが綺麗だよ。と言いかけたがやめた。「ねぇ。もう一回はぐして」
急だった。まるであの時を思い出すかのようだった。僕はしょーがないな。と言いつつも僕は彼女を強く抱きしめていた。あの時と同じ温もりだった。
「大好き」
「僕も」
そのまま僕たちは互いに強く抱きしめ合った。そしたら彼女が僕の胸部に顔を埋めた。というより突っ込んだ。一瞬びっくりしたが、僕もすかさず彼女の頭に顔を埋めた。ほのかに花の香りがした。
「ふふ。いい匂いする」
まるで僕の心情をそのままナレーションするかのように、彼女が言った。
「お前もだよ」
彼女はまたくすっと笑って僕の服に顔を擦り付けた。
「ちょ。やめろよ。くすぐってぇよ」
「あはは。ごめんごめん。つい」
そう言って彼女は舌を出した。そして僕は仕返しに彼女の頭に顔を擦り付けた。
「ん!何してんのぉ!髪の毛ぐしゃくじゃになるでしょ!」
彼女は頬をフグみたいに膨らませて、怒ったようだった。
「ごめんごめん、遥香の真似したんだよ」
「もぉ。やめてよね」
「はは、ごめんごめん」
「もぉーーーーーー」
「ちょ、やめろよ」
彼女はもぉーーーーーと言いながらまた、僕の胸部に頭を擦りつけた。
「ふふしっ返し♪」
はあ。僕の服までぐしゃぐしゃだ。僕はふとその辺にあった時計を見た。その時計は4:30分をとっくに過ぎていた。
「やっば。もう四時半じゃん。バイトの時間だ。じゃあな。遥香」
「うん。じゃあね…」
少し悲しそうに彼女は言った。
こんな楽しい毎日がずっと続いて欲しかった。でも、その願いは叶う事はなかった。
次の日。彼女は学校に来なかった。先生によると体調を崩したらしい。今日の教室は、やたら静かだった。やっぱりいつも騒がしいクラスが静かになると少し違和感を感じる。いつもはもっと静かに授業したいと思うのに今日はもっと騒がしくして欲しいと思っている。はぁ。いつもより授業が長く感じる。やっぱり彼女は偉大だ。
家に帰ってすぐ彼女に連絡した。
《体調大丈夫?》
返事はすぐに来た。
《ごめんごめん。心配しちゃった?ただの風邪だから心配しないで大丈夫だよ!》
僕は大丈夫だと思わなかった。いや、大丈夫だと思いたくても思えなかった。昨日もあんなに元気だったし、彼女はいつも笑顔だ。明日は来て欲しいと思った。願うしかなかった。次の日も、彼女は休んでいた。誰も話しかけてこない中休み。静かな授業。一人で食べるお弁当。一人の帰り道。一昨日と全て違う。これはきっと一昨日のが日常だと勘違いしてしまっているからだと思う。あんなの偶然に決まっているのに。たまたまに決まっているのに…。帰り道一昨日はぐしたところに来た。今日も夕焼けが綺麗だった。目の奥になにか熱いものを感じた。僕は泣いてはいけないと思って上を向き目に力を入れた。でもそれを防ぐ事はできなかった。初めての感情だった。恋なんてしたことない僕には分からない感情だった。
それから1週間彼女は学校に姿を現さなかった。今日食べたお弁当にはあの卵焼きが入っていた。今日は食べることができたが、どこか寂しい気がする。体は自然と屋上に向かっていた。彼女を思い出すためだろうか。彼女のことが忘れられないためか。僕にはわからなかった。帰り道。今日は夕立だった。一人、ビニール傘をさし、寂しく帰る。これは彼女が来なくなってからずっとそうだった。心のどこかに彼女がただの風邪ではないと疑う自分がいた。どこか彼女を信じることができない自分が…。
その的中してほしくなかった予想は当たってしまった。
彼女からメッセージが来た。
≪今から電話してもいい?≫
急だった。放課後、家に帰って読書を楽しんでいるところだった。どこか彼女のことを思いながら。僕は彼女からのメッセージを待っていたのかもしれない。きっと待っていたのですぐさまいいよ。と返した。すると電話は直ぐにかかってきた。着信音が部屋中に鳴り響く。僕は電話に出た。どうしてこんなに電話に出るのに躊躇ったかというと、何か嫌な予感がしたからだ。僕のこうゆう勘は当たることが多いからだ。電話に出ると彼女は僕の予想通り一言目にしては重い言葉を発した。僕の勘は的中してしまったのだ。
『あのさ、大事な話があるの。今時間ある?』
僕はこういう話が苦手だ。一対一で何か重い話をするのが。二人で話すと相手の言葉がそのまま自分だけに突き刺さる。複数人と話している時と違って、言葉は研ぎたての尖ったまま僕の心に刺さる。それがとても痛い。でも二人だと誤魔化すことも許さず話が進む。でも、大事な話ならしょうがない。
「うん。あるよ。どした?」
勇気を出した。
「ありがと。えっと…、すごく言いにくいんだけど…私さ…」
いつもの元気な彼女の声とは違って、ガチトーンな気がした。一応説明しておくとガチトーンとはそのままガチなトーンってことだ。ガチトーンのときは大体やばい。僕の経験がそう語ってる。
「どした?早く言えよ」
正直、言ってほしくなかった。でも焦りのあまり言ってしまった。そして彼女を焦らせてしまった。
『あ…そーだよね、早く言って欲しいよねごめんね…。ゔうん。改めて言います。えと、私実はね…』
この後は嫌でも聞きたくなかった。でもそんなことをしたら彼氏失格だ。僕は改めて覚悟をして聞いた。
『実は“病気”なんだ…』
僕はその一言に絶望した。
「…えっ…」
思わず声を出してしまった。
『はは、そうだよね。急に言われても納得できないよね。私も言われた時は絶望したよ。一夜泣いたよ。でもさ私の気づいちゃったんだよね。絶望してたって、泣いてたって、未来は変わらないし、病気も治るわけではない。だからさ、君にも受け入れて欲しいんだ。時間かかってもいいから。ごめんね。言うの遅くなって。勇気が出なかったんだ。でも言えてよかった』
彼女の冷静さに僕は少しばかり驚いた。今すぐ彼女に会って抱きしめてやりたい。慰めてやりたい。一人で抱えて辛かっただろうな。
「うん…わかった…」
『ふふ。ありがとぉ。でもね、私の病気、死ぬわけじゃないんだ。どんな症状がでるかわからないけど、死ぬことはないって。よかった』
彼女は少しほっとしたように言った。僕もほっとした。彼女の命に別状がないならよかった。
「よかったよ。お前が死ななくて」
ついでた言葉に彼女は、そう言ってくれてうれしいと言いながら笑った。
『1週間休んだのは検査のためなんだ。でも検査しても何も異常はなくて…。でも検査入院のときに急にお腹痛くなったり、頭痛くなったり、吐き気がしたりしたんだ。だから、何かはあるの。でも何があるのかは分からないんだ。怖いよね…』
僕はそんな深刻な病気なのにそんな冷静に話せる君が怖いよと言おうとしたが、やめた。
「ねぇ。今会える?」
思わず言ってしまった。
『え…』
戸惑わせてしまった。何やってんだ僕。
「あはは。ごめんごめん。冗談だよ。」
苦笑いしながら言った。彼女は今きっと病院だ。そんな会えるわけないよな。僕のばか。
「あえるよ。てか、あいたい。〇〇病院に来て」
彼女のガチトーンは今も続いていた。僕は今すぐ彼女に伝えられた病院に向かった。家からバスを乗り継いで30分くらいのところにあるでっかい市民病院だ。ここらじゃ有名だったので、道はわかった。バスの座席に座ると僕の心臓の鼓動が聞こえた。自分のことではないのに…。鼓動はとっても早く打っているもしかしたら今日、人生で限られてる鼓動の数を超えて死んじゃうんじゃないかってくらいだった。僕はその鼓動を聞きながら病院に着くのを待った。
病院に着き、軽く手続きを終わらせて彼女の病室に向かった。彼女がいる病室には他に誰もいなかった。
〔213 佐野遥香〕
はぁ。僕は軽くため息を吐いた。大きく深呼吸し気持ちを落ち着かせ、入り口のドアを開いた。
「おはよ!ふふ。来てくれてよかった。」
電話のトーンとは全く違う彼女に少し驚いたが、彼女のひまわりのような笑顔を見るとそんなことは忘れてしまった。
「大丈夫なの?遥香。お前病気なんだよな。」
心配している僕とは裏腹に彼女はいつも通り元気よく答えた。
「うん!全然大丈夫!」
お前さっきのガチトーンはなんだったんだよ!と、心の中でツッコミを入れる。目の奥で熱いものを感じた。あの時と同じだ。一人の帰り道。寂しかった。辛かった。これを恋だと感じた。僕は涙を抑えるために上を向いた。
「どうしたの?泣いていいよ。私も嬉しい。」
と、いって満面の笑みを浮かべた。その目は少し輝いていた。僕はいつもの彼女見て目から涙が零れ落ちた。僕は彼女を抱き寄せ温もりを感じた。彼女も僕の後ろに手を回し抱き寄せた。彼女は涙を拭いながら、ありがとう…。と言った。