粗大ごみを拾ってしまった(恋する冥府の王・死神シリーズ2)
<ミイヤの部屋のベランダ・17時45分>

次にゆっくりと瞑王の唇が
ミイヤの唇に触れようと動いた。

それは、何かを求めるように・・・
確かめるように思えた。

その瞬間だった。

ミイヤに瞑王の思考が・・・・
水滴が落ちるように・・
入ってきた。

その思考は水紋のように次々と輪をひろげ、つながっていく。

この人の・・満たされない思い。
いや、ひどく疲れているのだろうか。

深い虚無と孤独・・
それは深海のように底が見えない。
光が届かない・・

孤独を好むが・・
でも、満たされぬ思いは深い・・

本当はとても繊細な人なのだろう・・・
わからないように隠してはいるが

静かに唇がミイヤの唇に触れた
が・・すぐに離れた・・

でも、ぎりぎりの位置にとどまっている。

その吐息が漏れる・・・
触れそうで・・触れない・・

衝動でも情熱でもなく・・
楽しんでいる様子ではない・・・

それでも、
その際どい余韻を味わうように思える。

瞑王は大きく息を吸い、
ジャスミンの香りに酔いしれているように見えた。

熱帯雨林のスコールが突然やんだ
夕刻の時のように、
それは強く香り広がる。

ミイヤに瞑王の思いが、
また流れ込み・・伝わる・・・

<抱きしめて・・・・>

満たされぬ思いを・・・
満たすのは・・・・お前だ・・

ミイヤは薄目をあけて、まじかに迫る彼を見つめていた。

<本当にまつ毛が長い・・
男の人なのに肌がきれい・・

きめがこまかくて・・
色が白い・・
脱毛を上手な所でやっているのかな>

またもや、
とんでもない方向に思考がとんでしまう。

「抱きしめて・・・」
瞑王がかすれた声でつぶやくように言った。

その言葉に従うように、
そうしなくてはいけない・・
と思い、
ミイヤの片手がそろそろと動き、
瞑王の髪に触れた。

ゆっくりと息を吐いて、
瞑王はうつむくように顔を
ミイヤの首筋にずらし、もたれかかった。

まるで満たされていない心を、
充電するように・・・
呼吸が同調するように感じられる。

「・・・して・・」

え・・何を?・・
「キスして・・」

瞑王の息がかかる、耳元で響く。

それで満たされない心が埋められるとでもいうのか。

なぜ私に要求してくるのか・・・
と聞きたいが、
体も動かない、声も出ない・・

いきなり・・
この関係の逆転現象

主導権を明け渡されてしまった。

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