粗大ごみを拾ってしまった(恋する冥府の王・死神シリーズ2)
<上条ミイヤのマンション・エレベーター前>

エレベーターが4階に着いた。
扉が開いたが、そのまま加賀城が<開>のボタンを押していた。
片手で扉を押さえて、振り返ってミイヤを見た。
ミイヤに先を譲ってくれているのだろう。

「お先に失礼します・・」
ミイヤが軽く頭を下げ、エレベーターを出た。
レディファースト・・・日本ではあまりしないのに・・・
気を使ってくれている。

ミイヤの動きとともに百合の芳香がたなびいた。
「マドンナリリー・・闇に咲く純潔の乙女・・」
「え・・・?」

その声はささやくように小さかったが、ミイヤは思わず振り返った。
すでに加賀城は廊下の闇の中で・・表情はわからず歩いていた。

加賀城が自分の家の鍵を開けている時に、ミイヤが思い切って声をかけた。

「あの、ごみ、今日は大丈夫でした。ありがとうございます。」
加賀城が意外そうな顔をして、ミイヤを見た。
「はい?・・あの・・別に」
加賀城が答えた。

ずいぶんと若い感じがする。
はじめてちゃんと加賀城を見て思った。
成長期の少年ぽい華奢な体つきをしているようで、
何となく中性的な雰囲気がある。

前髪が長いのか、加賀城は髪をかき上げた。
眼鏡越しでも、切れ長で黒目勝ちの大きな瞳と、
鼻筋の通った、端正な顔立ちであることがわかる。
スタイルのいいKポップのアイドルさんっぽい。

この人が女の子だったら・・誰もが振り向くような・・美人タイプだろう。
高校生ではないだろうが、大学生かな・・・
耳には金の小さなピアスが光る。

勤め人ではない、
フリーランスのアーティストかデザインとかやっている人のように見える。

<とりあえず、普通に話せてよかった>
と、ミイヤは安堵(あんど)の息を吐いた。

コールセンターのバイトの研修経験が生きた。
最後にきちんとお礼を言う事が、クレーマーにも大事なのだ。
そしてそれがクレーマー対策になる。

コールセンターは1日で辞めてしまったが、
その時の研修の内容がうまく使えた。

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