あの夏の久遠堂
◇
夏の終わりに本屋へ出かけた帰り道、少年とすれ違う。そのまま通り過ぎ去る風のようなものだと思っていた、しかし。
「楽しかったよ。いつかまた、久遠堂でな」
聞き覚えのある、どこかなつかしい声。思わず目頭が熱くなる。
「……はい。必ずいつかまた」
振り返るとそこに少年はいなかったが、あの夏椿の香りだけがその場に残っていた。
「楽しかったよ。いつかまた、久遠堂でな」
聞き覚えのある、どこかなつかしい声。思わず目頭が熱くなる。
「……はい。必ずいつかまた」
振り返るとそこに少年はいなかったが、あの夏椿の香りだけがその場に残っていた。