あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
幸せの向こうに
***
「いらっしゃいませ、水河様」
「和花さん!よかったあ~会えて!」
うららかな春の午後だったが、いつもながら莉里が来店するとアンティークショップは賑やかになる。
「どうかなさいました?」
和花がにっこり笑いかけると、莉里は安心した様に話し始める。
「あのね、ウエディングドレスの相談に来たの」
「まあ、おめでとうございます! 莉里さんとうとうお決まりになったんですか?」
銀座にある『アートギャラリー M』では、莉里が嬉しそうに婚約の報告をしている。
「お相手は?」
「やだあ~、知ってるくせに~」
「ウフフ、井上さんですね」
一年前に、樹は自分の弁護士事務所を立ち上げた。
莉里の父親の水河法律事務所から樹とともに独立した井上は、今や樹の片腕として働いているのだ。
井上と莉里はずっと交際を続けていたが、莉里が大学を卒業するのをきっかけに話がまとまったらしい。
「それで、どんなドレスがご希望でしょう?」
「和花さんの時みたいに、クラシックなかんじのウエディングドレスが着たいのお」
「あら」
ほんの少し、和花は頬を染めた。
「和花さんの結婚式、凄くステキだっだんですもの~」
樹は結婚式には関心がないタイプかと思っていたが、ふたりが想いを話し合って深く結ばれたあと、急に式を挙げると言いだした。