あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
彼が特別に和花だけを誘ってくれたのだ。
約束した日、彼は自宅まで車で迎えに来てくれて両親にも挨拶してくれた。
いつもよりチョッと大人びた服を着て、彼とレストランで食事した。
『あの草原で出会った時から和花のこと、気になっていたんだ』
何度も胸の中で繰り返した彼からの言葉は、今も忘れていない。
『僕と付き合って下さい』
樹はスターリングシルバーの台に小さなダイヤの付いたペンダントを、そっと和花の首に付けてくれた。
『これ、約束の印だよ。これからずっと一緒にいよう』
大翔からの情報では、樹は仕事の時は思いっきりしゃべるくせに普段は寡黙らしい。
その樹が一生懸命言葉を選んで、和花に愛を告白してくれたのだ。
嬉しくて嬉しくて、彼が囁いてくれた言葉すべてが和花の宝物になった。
どんなに忙しくても、なにが起こっても、樹は和花を大切にしてくれていると思っていた。
樹と愛を育んだ日々は、和花の中でキラキラと輝いていた。
あの日までは。
(嘘つき、嘘つき、嘘つき! ずっとそばにいてくれるって言ったのに!)
樹と別れて四年経った今もなお、和花の心はあの日を思い出すと血を流す。