あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~


あの日……。
大好きな父が犯してもいない罪を突き付けられて、警察に連れていかれた日。
和花はその時の衝撃が忘れられない。

銀座で画廊を経営していた父は、清廉潔白な人だった。
誰よりも確かな審美眼を持ち、自分の仕事に誇りを持つ人だった。
それなのに、贋作とわかっていたのに高額な値段で売りつけたと訴えられたのだ。

(そんなこと、絶対にお父さんはしない!)

和花は弁護士として働き始めていた樹に、何度も何度も電話を架けた。
繋がらないから、必死でメッセージも送った。

『助けて、樹さん!』

でも、彼からの連絡もメッセージに対しての返信もなかった。それでも和花は心の中で彼の名を呼び続けた。

後になって、父を訴えた実業家が揃えた弁護団に樹の名前があったと知った。
世間からの非難を浴びている美術商の娘と、訴えた側の弁護士が恋人関係にあるのが知られたらどうなるか。
敵対する関係では、互いに情報漏洩を疑われてしまうだろう。


< 18 / 130 >

この作品をシェア

pagetop