あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
しだいに和花は、樹と別れるべきではと悩み始めた。
彼は、弁護士。彼の父親も法律事務所の所長だ。
一度でも罪を疑われた父を持つ以上、彼らにとって和花にはなんのメリットもない。
(私たちは出会ってはいけなかった。彼に恋してはいけなかったんだ)
樹の弁護士としての将来のためにと思いつめた。
彼と会うことを避け続けているうち、とうとう連絡は絶えた。
樹は和花を追いかけてはこなかった。
(彼の中に、もう私はいない)
和花は自虐的な思いに囚われた。
『彼は私だけを愛してくれている』と信じていたが、恋とは自己満足にすぎないのかもしれない。
あの辛い日々を思い出すと、傷ついた心は今でもジクジク疼いた。
大翔や佐絵子が変わらにそばにいて、支えてくれたのが和花の救いだった。
樹と会わなくなって一年くらい経ってから、大翔が教えてくれた。
『兄貴、アメリカに行ったんだ』
ニューヨークで弁護士資格を取るという。
樹が遠くに行ったことで、ようやく和花は『別れた』実感がわいてきた。
すでにお互いに別々の道を歩み始めていて、彼には弁護士としての輝く未来が約束されるだろう。
お互い『サヨナラ』も言わないまま、この恋は終わったらしい。