あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
秘書の目つきが気になった佐絵子は、樹にまた余計なことを言ってしまった。
「相変わらずモテてるの? 樹さん」
ニューヨーク時代には、かなり女性から言い寄られていたと大翔から聞いていたのだ。
「バカ言え。そんな時間はないよ」
「でも、あの女の目つきヤバいわよ」
「俺の秘書の佐竹さんだよ。仕事の関係だけだ」
あっさりと否定するところを見ると、秘書が勝手に樹に熱を上げているだけのようだ。
「へえ~、仕事の関係ね。あちらはどう思っているかは知らないけど」
「言いがかりはやめてくれよ。それより花を買うなんて、なにかあったの?」
「あ……」
一瞬、佐絵子は迷った。
樹に和花のことを話したら、大翔からきっと叱られるだろう。
(でも、事実を伝えられるのはアタシだけだ)
そう思うと、勝手に口が動いてた。
「和花のお母さんのお見舞いなの。でも、ずいぶん悪いみたいだから病室には入れないかもしれなくて」
みるみるうちに、樹の顔色が悪くなっていった。