あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
取りあえず悪い風邪だったらいけないと思い、その日は帰宅させてもらうことにした。
ハワード夫妻は、仕事のあと夕食会へ出席するために留守なのだ。
「ジョアンナさん、ごめんなさい。風邪をひいたみたいなの。子供たちにうつったらいけないから、今日は帰りますね」
「マドカ、病院へ行ってみたら?」
「少し休めば大丈夫だと思います。万里江さんにはメッセージを送っておきますが、ジョアンナさんからも伝えてくださいね」
「わかりました。気をつけてね」
いつもなら気軽に地下鉄を利用するのだが、流石に気持ちが悪くてタクシーに乗る事にした。
ミニキャブの運転手は顔色の悪い和花に親切に対応してくれた。
やっとの思いでフラットに帰り着き、ベッドに倒れ込む。
(いやだ……気持ち悪さがおさまらない)
こういう時、ひとり暮らしは心細い。体調が悪いと孤独感に拍車をかけるのだ。
(水分だけはとらなくちゃ)
冷蔵庫まで歩くだけでもフラついた。貧血気味かもしれない。
朝になれば気分がよくなっていることを願って、和花は着替えもそこそこにベッドに潜り込んだ。