あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
万里江が連れて行ってくれたのは、パディントン駅の近くにある病院だった。
血液検査や尿検査のあと、ドキドキしながら女医の診察を受けると思いもよらなかった診断が下された。
「おめでとう、妊娠していますよ」
突然のことに、和花は声が出なかった。
(どうして?)
なんて答えたのかも記憶にない。
診察室の外で待ってくれていた万里江の元に、フラフラと歩いて行った。
「どうだった?」
「万里江さん……」
なんて言えばいいのか言葉に困っていたら、万里江がはっきりと口にする。
「もしかして、赤ちゃんができた?」
まだ自分でもわかっていなかったのに、万里江はどうやら気が付いていたようだ。
「どうしてわかったんですか?」
「昨日、そうじゃないかってジョアンナが心配してたから」
昨日、温めていたミルクの匂いで和花が洗面所に駆け込んだときにジョアンナが気付いたようだ。
「私や彼女は経験者だから、なんとなく」
「そうなんですか」
俯き加減の和花に、万里江はぴしゃりといった。
「ほら、そんな顔しないで! 何処かでお茶しましょ」
「え~と……」
「あ、その顔色じゃ無理ね。和花のフラットへ帰りましょう」
和花の顔色を見て、万里江は帰宅したほうがよさそうだと思ったのだろう。
和花もそのほうがありがたい。
気分も悪いし、なにより『妊娠』という現実に気持ちが追いついていかない。
「私がついてるからね」
そんな和花の気持ちに気が付いたのか、万里江はそっと肩を抱きよせてくれた。