あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
ハワード家の車でフラットへ帰ると、万里江は和花をソファーに座らせた。
「じゃ、よかったら聞かせてくれる?」
和花の隣に腰掛けた万里江は、安心させるように手を握ると優しい声で尋ねてきた。
相手について知りたいのだろう。
「相手……」
「赤ちゃんはひとりじゃ作れないよ、和花」
もちろん、和花にだってわかっている。相手は、樹しかいないのだ。
初めての夜から、避妊は全て樹に任せてきた。
もう二度と愛しあうことはないと思っていたのに、あの夜だけ寂しくて恋しくて身体を重ねてしまった。
「赤ちゃんの父親は、別れた恋人です」
和花は小さな声で答えた。
「和花は真面目だもの。遊びじゃなかったんでしょ?」
「もちろんです!」
「冷たいようだけど、はっきり聞くわね。赤ちゃんは……」
万里江の言葉より早く、和花は自分の気持ちを伝えていた。
「産みます!」