脱出ゲーム ~二人の秘密の能力~
まさかの出会い
「誰かいますかー?」
部屋の中はカーテンも閉められてるのか、日の光でさえほぼ入ってなく、真っ暗。
さっき持ってきた懐中電灯をつけて辺りを見渡す。
特に声とかはしないけど…。
「え、もしかして誰もいない…?」
そう思った時だった。
「えっ…」
懐中電灯の光が一人の人影を映した。
体育座りをしている少年。
しかしその手足は縄状のロープでぐるぐるに巻かれ、口もガムテープでふさがれている。
しかも、その体はクローゼットの扉にロープでつながれている。
「大丈夫ですか!?」
私は慌てて駆け寄って少年のガムテープを取った。
声を掛けると、少年はうつむいたまま小さく頷く。
よかった、無事みたい…!
近くで見ると顔色も悪くはなさそうだし。
特に異常はない。
ほっと息を吐いて少年の顔をちらりと見る。
同い年くらいだろうか?
妙に顔立ちの良い少年に思わずドキッとしてしまう。
…て、今はそんな状況じゃなくて!
「…あんた、一体」
固く結ばれたロープに苦戦してると少年が話しかけてきた。
一体と言われても、何といえばいいのか…。
「えーっと、千堂七瀬、十三歳です。あなたは…」
「三崎廉(みさきれん)、十三歳だ。それより、書斎にある机の引き出しにカッターがあるから持ってこい。早く」
「へ…?あ、はい」
なんだか状況がよくつかめないまま、言われるがままに寝室を出る。
カッター、だよね?
書斎に向かいながら頭の中を整理していく。
あれ、なんで私、カッターなんて探してるんだっけ?
あ、そうだ、あの男に言われて…。
って、
「なんなの?あの態度…。助けてもらったのにお礼はしないわ、命令はするわ。あの、三崎廉って…。ん?三崎?」
アンティーク調な机の引き出しに入っていたカッターを持ったまま、私は立ち止った。
三崎ってどこかで聞いたことのあるような…。
って、あぁ!
「三崎ってもしかして、三崎グループの!」
「カッターこっち向けるなよ、危ないだろ」
「あ、ごめんなさい」
慌てて駆けてきたので、カッター持ってたことすっかり忘れてた…。
「確かに俺は三崎グループの御曹司だ」
「オン…なに?」
聞きなれない言葉に、私はすっかり混乱してしまう。
「御曹司だ!わっかりやすく言うと、三崎グループ社長の三崎善(みさきぜん)の息子だよ」
三崎グループの息子!
なるほど、だからこの船にいたんだ。
にしても、本当、偉そうなヤツ!
バカにしてくる目線が瀬那そっくりだもん。
「で?お前はどうしてここにいるんだよ。今日は関係者以外立ち入り禁止だったろ」
「え?あ、私はパパにかわって写真を撮りに」
「写真?」
その言葉を聞いて廉が明らかに怪訝そうな顔をする。
なんか私、疑われてる?
「パパが小説家で…。あっ、柊飛鳥(ひいらぎあすか)っていうペンネームなんだけど知らない…?一応映画化とかになってるのも」
「お前、あの柊先生の娘なのか!?なんだよ、先に言えよな」
私が言い終えるよりも前に廉が頬を染めて、興奮した様子でそう言った。
なんかよくわからないけど、納得してくれたみたい。
「それで、なんでお前まだ船の中にいるんだよ?まさかさっきの船内放送の犯人じゃないよな?」
「あ、えっと、なんていうか出られなくて…」
「出られない?」
私は眉をひそめる廉のロープをほどきながら、ここまでのことを話した。
超能力のことだけは人に話しちゃダメ、とパパからよく言われてたからそこだけはうまく隠して。
「なるほどな。もしかしたら、君たちって言うのは俺たち二人なのかもしれないな」
「え?君たち?」
突然の言葉に私が首をひねると廉は無言でシシワ1つない、きれいに整えられたベットの上を指した。
なんか乗ってる…?
ベットの上には一枚の白い封筒が乗っていた。
「読んでいいの?」
「ああ、読めば分かるさ」
と廉が言うので、封筒から薄い便せんを取り出して読んだ。