脱出ゲーム ~二人の秘密の能力~
まだ私たちは何も知らない
「…また、ゲームやってんの?」
カチリ。
パソコンの妙に硬いマウスを押したのと同時に、背後から聞き慣れたあきれ声が降ってくる。
声の主は振り返らなくても、分かる。
「ゲームじゃないもん。脱出だもん」
私、千堂七瀬(せんどうななせ)はくるりと振り返って頬を膨らませる。
「いや、それ、パソコンの脱出ゲームじゃん」
冷めた目つきでショートカットがよく似合う双子の妹、瀬那(せな)が言い放つ。
声の主はやっぱり、想像通りだった。
腕を組んで瀬那があきれあたように息を吐いてくる。
そんな瀬那の顔を見てムッとするのと同時に双子ながら似てないなぁと改めて思う。
私達は双子なのに似ていないとよく言われる。
もちろん、よく見てみると顔ごとのパーツはすごく似てる。ていうか、ほぼ同じ。
けど、全体で見ると不思議なことになんだか似てないのだ。
特に、大人びたあの瀬那の顔つきは。
「パパの新作ゲームやってるんだから邪魔しないでよ」
「別に邪魔はしないけど、先に宿題終わらせるべきじゃない?」
「むぅ…」
やれやれといった顔を浮かべる瀬那を見て、小腹が立つ。
私達は、性格も似ていない、というか正反対なのだ。
瀬那は全国テストで余裕で1位を取ってくるくらい、めちゃくちゃ頭が良くて、変に大人びてる。
私はというと、自分で言うのもなんだけど勉強は得意じゃないし、性格は子供っぽい。
体を動かすことは好きなんだけどね。
それと、私も瀬那も趣味はパソコンだけど、その使い方は全然違う。
私は脱出ゲームとか謎解きゲームが好きで、よくパパが趣味で作った脱出ゲームをやらせてもらってる。
瀬那は…何してるのかはよく分からない。
聞いてもいまいち教えてくれないから気になって一度後ろからこっそりのぞいてみたけど、なんだか難しそうな記号とか英語が並ぶだけだった。
見てるだけで気持ち悪くなっちゃったし。
「おーい、双子達」
「あ、パパ」
瀬那の言葉を無視して脱出ゲームを再開しようとすると、ボサボサの髪の毛に、灰色のトレーナー姿のパパがあくびをしながらやって来た。
パパは推理小説家であるけど、趣味でよく脱出ゲームも作っている。
昔はゲーム会社で働いてたんだって。
「またケンカしてるのか?」
「別に、気にしなくて良いし。てか、仕事終わったの?どうせ寝てたんでしょ」
「瀬那は相変わらず冷たいなぁ。そう、それでさ資料を鈴宮コーヒーに忘れてきちゃって、取りに行って欲しいんだ」
パパがのんきにあははと笑いながら、後頭部をポリポリとかく。
相変わらず能天気な性格。
…まぁ、私も人のこと言えないけど。
よく瀬那にも行動がパパそっくりだって言われるしね。
「えー、自分で取りに行けばいいじゃん」
私の文句も通らず、パパはパチリと勢いよく手を合わせて頭を下げた。
「これから電話で打合せがあって…。どっちかで良いからお願い!」
その言葉に、溜息を吐きながら私と瀬那は顔を見合わせていた。