脱出ゲーム ~二人の秘密の能力~
「セキュリティデータを開こうとしたらまたこれだ」
呆れたように廉が言う。まあ、なんとなく想像は出来てたけど…。
「正解って、どういうことだろう…?」
答えと正解って同じじゃないの?
「多分、三つの問題の答えを組み合わせると、何かの単語か文章になるんじゃ無いか?」
「そっか。…あ、そういえば」
ふと、瀬那の言葉を思い出した。
『ねぇ、瀬那。話したいことって何だったの?』
テレパシーが映画館で繋がってすぐ、そんな事を言っていた。
『え?あぁ、そうね。ねぇ、そこに三崎廉もいるんでしょ?』
『うん』
真剣にパソコンを操作してる廉を横目に頷く。
『じゃあ、彼にも同時に話しておいて。彼にも聞きたいことがあるから』
『聞きたいこと…』
一体なんだろう?
そんな事を思いながらも廉に声を掛ける。
「廉、瀬那が廉にも話があるみたいなんだけど…」
「俺に?…分かった」
廉が頷くのと同時に瀬那が話しだした。
『まず、三崎廉に質問なんだけど人の心を読み取る能力を知ってる人ってどれくらいいる?』
「廉の能力を知ってる人ってどれくらいいるの?」
「それは…多分かなりの数がいると思うぜ。学校の奴、この船のスタッフや父親の会社の人も知ってるし。第一隠すことでもないしな」
『…だって。でも、なんでこんなこと聞いたの?』
『なぜ二人がこの船に閉じ込められたのか。言ったでしょ、そのカギは二人の共通点にあるかもしれないって』
そういえば、廉と会った直後にそんなこと言ってたっけ。
『二人の共通点は、特殊的な能力を使えること。三崎廉は、表情だけで人の心を読み取れる能力。七瀬はテレパシーとサイコメトリー』
確かに言われてみればそうだ。だけど…。
『でも私の能力を知ってる人なんてほとんどいないよ?』
昔からパパに口止めされてたのもあって、私たちの能力を知ってる人なんて限られてる。
友達にすら言ってないんだもん。
『そんなことはないの。パパの小説、超能力シリーズはその名の通り超能力を持った少女が主人公の内容。そしてその超能力が、かなりリアリティのある内容だと巷で言われ始めている。…そうなると、モデルとなった七瀬に自然と目が向く』
『けど、なんで瀬那じゃなくて私?それに、小説がリアルだからってあまりにも…』
そんなの、ウワサ話にしか過ぎないと思うんだけど…。
『七瀬は読んだことないから知らないと思うけど、主人公の双子のうち、一方は超能力が使えない設定になってるの。その使えないほうは大人びた性格をしてて、逆に使えるほうは子供っぽい性格をしてる。そこから判断したのかもね』
…なんか、悪口言われてる気がするんだけど。
そんな私を無視して、瀬那が話し続ける。
『それにさっき友利さんから聞いた。この間、鈴宮コーヒーで七瀬が超能力使えることを口走ったって』
そういえば、そんなこともあったっけ。
…って、そうだ!
思い出した、あの時!
『あの時、お店で帽子を深く被って、マスクとサングラスをした男の人がジッ、と私を見てた!その人の視線、なんていうか…。なんだかすごく鋭くって』
今でも覚えてる。
あの人の眼は尋常じゃない、すごい何かを持った目だった。
『…きっとその人がこの船を乗っ取った犯人ね。犯人の狙いは二人の能力』
『私たちの、能力』
『ええ。さっき、この船の監視カメラを乗っ取ったんだけど』
『乗っ取った!?』
あまりにも自然な流れで言うから聞き流しそうになったけど衝撃的すぎる発言に思わずびっくりする。
乗っ取ったなんて、そんなバカな。
瀬那は機械系が得意だとは思ってはいたけど…。
そんな私の叫びも聞こえないかのように、瀬那は話し続ける。
『監視カメラに映るのよ、沢山の小型カメラがね』
『それって、つまり、私達のことを犯人が見てるってこと!?』
『そういうことね』
瀬那の静かな肯定に、ゾゾッと寒気がしてくる。
『暗号があったのも、多分、二人の能力を見定めるため。七瀬のサイコメトリーが無いと分からないことだってあったでしょ?』
確かに、映画館に行くことも、操舵室に向かうことも、サイコメトリーの能力で分かったことだよね。
『犯人はもしかしたら、超能力者を探しているのかもしれない。三崎廉の能力は超能力だと勘違いしてもおかしくないし』
確かに私も最初は廉のこと、超能力者だと思ったもん。
そこまで考えて、ピンと来てしまった。
『それじゃあ、犯人の目的は…』
『…超能力を自分の利益になることに使おうとしているか。…もしくは、排除しようとしてるか』
『そんな…』
一気に絶望感が増してくる。
どちらにしたって危ういことには変わりない。
…でも、瀬那は助かるって言ってくれたもの。
私は絶対に助かる!
自己暗示させるように、身体に教えこむ。
『そっか。だからパパ、いつも超能力のこと人に話すなって言ってたんだ。こういうことがあるから…。それで、犯人は分かってるの?』
『まぁ、大体の目星はついてるけど。…それは暗号を解いてからのほうが良さそうね。タイムミリットが近づいてきたみたいだし』
『えっ?』
瀬那の言葉を聞いて、私は壁際に置かれた大きな振り子式の時計を見る。
時刻はちょうど四時半を指していた。
「…あと、三十分だな」
小さな廉のつぶやきは、その時間のなさを表していた。