脱出ゲーム ~二人の秘密の能力~
「それじゃあ、早速暗号を解いていこう!」
暗めの雰囲気を払おうとエイッと、腕を上げる。
三十分も、あるんだもん!なんとかなる!
「…それよりも、暗号を探すのが先だけどな」
呆れたように、でも優しい笑みで廉が言うので、はからずもドキッとしてしまう。
「あっ、そだね。じゃあ…」
私は廉が操作してたパソコンのマウスに触れる。
この広すぎる船に隠れた暗号を普通に探せば、時間がかかり過ぎる。
でも、私の能力を使えば、暗号の場所が分かるかも…!
その瞬間、頭の中に三つのイメージがワッと浮かんできた。
…あれ、でも。
「何か分かったのか?」
「あ、うん。まず浮かんだのは…。いちごのパック?」
「えっ、いちご?」
目を見開いて、廉が尋ねてくる。
まぁ、その反応も分かるけど…。
周りを見ても、いちごなんて無いし、こんな豪華なロビーに置いてあるとも思えないもんね。
「いちごって…」
「スーパーとかで売ってるパック入りいちごが机の上に乗ってるのが見えたんだけど…」
「もしかして…、スタッフルームか?」
「スタッフルーム?」
私の質問にも答えず、廉がカウンターの後ろのドアを開けてズンズンと進んでいく。
ドアの先の部屋には、沢山のロッカーが壁に並べられていて、中心には長机が…って!
「いちご!」
机の上に、パック入りのいちごが置いてあった。
間違えない!私がイメージしたのと同じのだ!
ダッシュで駆け寄る。
「美味しそう!」
甘い香りと、キラキラした見た目に胸が高鳴る。
…って、そうじゃなかった。
「これが、暗号じゃないか?」
いちごの隣に置いてあった小さなカードを取って、廉が言う。
「本当だ。…なになに?」
【いちごのくさを取ろう!】
「…え?」
瞬間的に頭が?になる。
いちごのくさを取ろう…って、
「こういうこと…じゃないよね」
私は疑問に思いながらも、一応パックに入ったいちごをひと粒とり、そのヘタを取る。
「…それで、どうするんだ?」
「…あははは。んっ!おいしい!」
いちごの甘さが舌の上で広がっていく。
やっぱ、おいしいなぁ!
「…まぁ、そういうことじゃないよな」
呆れた風に廉が言う。
「だよね。…んー、だとしたらどういうことだろう?いちご…くさ…」
ぶつぶつとつぶやきながら考えてみる。
『七瀬、私分かったかも』
『え』
突然の瀬那の声と、まさかの言葉にびっくりする。
そういえば、つながったままだったんだ。
…でも、私、瀬那に暗号のこと伝えてたっけ?
無意識に伝えてたのかなぁ?
『監視カメラで二人のこと見てるのよ。この船、いたるところにカメラが付いてるみたいだからね』
ため息をするかのように瀬那が話した。
なるほど。
『そういえば、飯田さんがセキュリティがばっちりって言ってたかも。それより、分かったって暗号の答えだよね?』
『もちろん、当たり前じゃない』
自信たっぷりの瀬那の声が届く。
おぉ、これは期待ができそう…!
「もしかして、お前の妹が答えを見つけたのか?」
考えていた廉が、私の表情を見て聞いてくる。
「うん、そうみたい」
『まず、いちごのくさを取ろう。これを漢字にできるところは変換する』
『ふんふん』
瀬那の言葉を聞いて、近くのメモ帳に漢字で書いていく。
「…いちごの漢字ってどんなんだっけ」
いちごって普段漢字で書かないから忘れちゃった…。
「…しょうがねえな。貸せよ」
廉がそう言って私のペンをほぼ半ば強引に奪って書いていく。
【苺の草取り】
「…あっ!」
書きあがった文字を見てピンときた。
『そう、漢字の草といえば思い浮かぶのは、草冠。つまり、苺から草冠を取る!』
『正解は、母だね!』
『そう!』
大きく瀬那が頷くのが、声だけで分かった。
「これで暗号は残り二つか」
「でも、こんな能力が役立つ日も来るんだね」
スタッフルームのドアノブを回しながら、私はふと口にする。
テレパシーもそうだけど、能力がこんなに役立つ日は今まで特に訪れなかった。
しかもテレパシーは普段連絡代わりに使おうとすると瀬那にウザいってキレられるし…。
その点、
「その点、俺の能力は役立つってか?」
冷静に言う廉にびっくりする。
「あ、読まれてた?」
「まぁな。…でも、俺にしたらお前の方がうらやましいよ」
「へ?そう?」
どう考えても廉の方がうらやましいけど…。
だって、授業中に先生が次に誰を当てるかも予測できちゃうし、じゃんけんだって絶対に勝てるよね?
「あぁ。…この能力は、人の読みたくない心も読めるからな」
「あっ…」
言われてみればそうだ。
もし、自分に対してよくないことを考えてたら…。
「それに、能力のことを話して嫌がられることだってよくある。もちろん、ほとんどのやつがそんな事を口にはしないけど」
(廉…)
口を閉ざした廉の顔は、寂しげで、かつ辛そうな顔だった。
今まで見たことのないくらい。
でも正直、私も同じようなことを考えてたことがあった。
私の場合は能力のことを人に言うことはなかったけど、もしバレたら嫌われたりするんじゃないかってずっと怖かった。
廉はきっと、もっと、私にも分からないくらい、辛い思いをしてきたんだ…。
そう思うと私まで辛くなりそうになる。
けど…。
「けど、私は廉の能力はすごいと思う!」
「えっ…」
廉が驚いたようにこちらを振り返る。
「だって、人の顔を見ただけでその人の考えてることが分かるなんて本当にすごいよ!それに、廉はその人の思ってることを絶対悪用しないって、廉のこと信じられるもん!」
「…なんでだ?」
「えーっと、それはどうしてかって言うと…」
上手く言葉が浮かんでこなくて、とにかく頭の中で考える。
うーんと、あっ!
「そう!廉は私の能力を嫌がることもなく普通に信じてくれたから。だから私、廉のこと信じられるんだ。私の言ってること、本当だって廉なら分かるでしょ?」
私は廉の瞳を真っ直ぐと見つめた。
伝わるはず…!
沈黙が一分、二分…。
時計の秒針が刻む音でさえ、長く感じられた。
私の心臓もドキドキと高鳴っていく。
(廉…)
その瞬間、表情が読み取れないような、真顔でいた廉がほんの一瞬笑った気がした。
「…お前真っ直ぐすぎるだろ。…けど、一瞬思ったよ。この能力で良かったってな」
「廉…!」
伝わったんだ!
胸がきゅっーって嬉しくなると同時に笑顔がこぼれるのが自分でも分かった。
「かっ、勘違いするなよ?俺は別にお前のこと…」
「私のこと?」
「な、なんでもねぇよ!それより、次にイメージしたのはどこだったんだ!?」
若干キレ気味の廉を見て、なんとなく安心する。
「うーんと…確かホテルとかでよく見る、スーツケースとかの荷物を運ぶ台車かな」
『それならさっき、ロビーの入り口に置いてあったのが映ってたけど』
と、どこまで聞いていたのか分からない瀬那の言葉に従って、私達はロビーに戻った。
暗めの雰囲気を払おうとエイッと、腕を上げる。
三十分も、あるんだもん!なんとかなる!
「…それよりも、暗号を探すのが先だけどな」
呆れたように、でも優しい笑みで廉が言うので、はからずもドキッとしてしまう。
「あっ、そだね。じゃあ…」
私は廉が操作してたパソコンのマウスに触れる。
この広すぎる船に隠れた暗号を普通に探せば、時間がかかり過ぎる。
でも、私の能力を使えば、暗号の場所が分かるかも…!
その瞬間、頭の中に三つのイメージがワッと浮かんできた。
…あれ、でも。
「何か分かったのか?」
「あ、うん。まず浮かんだのは…。いちごのパック?」
「えっ、いちご?」
目を見開いて、廉が尋ねてくる。
まぁ、その反応も分かるけど…。
周りを見ても、いちごなんて無いし、こんな豪華なロビーに置いてあるとも思えないもんね。
「いちごって…」
「スーパーとかで売ってるパック入りいちごが机の上に乗ってるのが見えたんだけど…」
「もしかして…、スタッフルームか?」
「スタッフルーム?」
私の質問にも答えず、廉がカウンターの後ろのドアを開けてズンズンと進んでいく。
ドアの先の部屋には、沢山のロッカーが壁に並べられていて、中心には長机が…って!
「いちご!」
机の上に、パック入りのいちごが置いてあった。
間違えない!私がイメージしたのと同じのだ!
ダッシュで駆け寄る。
「美味しそう!」
甘い香りと、キラキラした見た目に胸が高鳴る。
…って、そうじゃなかった。
「これが、暗号じゃないか?」
いちごの隣に置いてあった小さなカードを取って、廉が言う。
「本当だ。…なになに?」
【いちごのくさを取ろう!】
「…え?」
瞬間的に頭が?になる。
いちごのくさを取ろう…って、
「こういうこと…じゃないよね」
私は疑問に思いながらも、一応パックに入ったいちごをひと粒とり、そのヘタを取る。
「…それで、どうするんだ?」
「…あははは。んっ!おいしい!」
いちごの甘さが舌の上で広がっていく。
やっぱ、おいしいなぁ!
「…まぁ、そういうことじゃないよな」
呆れた風に廉が言う。
「だよね。…んー、だとしたらどういうことだろう?いちご…くさ…」
ぶつぶつとつぶやきながら考えてみる。
『七瀬、私分かったかも』
『え』
突然の瀬那の声と、まさかの言葉にびっくりする。
そういえば、つながったままだったんだ。
…でも、私、瀬那に暗号のこと伝えてたっけ?
無意識に伝えてたのかなぁ?
『監視カメラで二人のこと見てるのよ。この船、いたるところにカメラが付いてるみたいだからね』
ため息をするかのように瀬那が話した。
なるほど。
『そういえば、飯田さんがセキュリティがばっちりって言ってたかも。それより、分かったって暗号の答えだよね?』
『もちろん、当たり前じゃない』
自信たっぷりの瀬那の声が届く。
おぉ、これは期待ができそう…!
「もしかして、お前の妹が答えを見つけたのか?」
考えていた廉が、私の表情を見て聞いてくる。
「うん、そうみたい」
『まず、いちごのくさを取ろう。これを漢字にできるところは変換する』
『ふんふん』
瀬那の言葉を聞いて、近くのメモ帳に漢字で書いていく。
「…いちごの漢字ってどんなんだっけ」
いちごって普段漢字で書かないから忘れちゃった…。
「…しょうがねえな。貸せよ」
廉がそう言って私のペンをほぼ半ば強引に奪って書いていく。
【苺の草取り】
「…あっ!」
書きあがった文字を見てピンときた。
『そう、漢字の草といえば思い浮かぶのは、草冠。つまり、苺から草冠を取る!』
『正解は、母だね!』
『そう!』
大きく瀬那が頷くのが、声だけで分かった。
「これで暗号は残り二つか」
「でも、こんな能力が役立つ日も来るんだね」
スタッフルームのドアノブを回しながら、私はふと口にする。
テレパシーもそうだけど、能力がこんなに役立つ日は今まで特に訪れなかった。
しかもテレパシーは普段連絡代わりに使おうとすると瀬那にウザいってキレられるし…。
その点、
「その点、俺の能力は役立つってか?」
冷静に言う廉にびっくりする。
「あ、読まれてた?」
「まぁな。…でも、俺にしたらお前の方がうらやましいよ」
「へ?そう?」
どう考えても廉の方がうらやましいけど…。
だって、授業中に先生が次に誰を当てるかも予測できちゃうし、じゃんけんだって絶対に勝てるよね?
「あぁ。…この能力は、人の読みたくない心も読めるからな」
「あっ…」
言われてみればそうだ。
もし、自分に対してよくないことを考えてたら…。
「それに、能力のことを話して嫌がられることだってよくある。もちろん、ほとんどのやつがそんな事を口にはしないけど」
(廉…)
口を閉ざした廉の顔は、寂しげで、かつ辛そうな顔だった。
今まで見たことのないくらい。
でも正直、私も同じようなことを考えてたことがあった。
私の場合は能力のことを人に言うことはなかったけど、もしバレたら嫌われたりするんじゃないかってずっと怖かった。
廉はきっと、もっと、私にも分からないくらい、辛い思いをしてきたんだ…。
そう思うと私まで辛くなりそうになる。
けど…。
「けど、私は廉の能力はすごいと思う!」
「えっ…」
廉が驚いたようにこちらを振り返る。
「だって、人の顔を見ただけでその人の考えてることが分かるなんて本当にすごいよ!それに、廉はその人の思ってることを絶対悪用しないって、廉のこと信じられるもん!」
「…なんでだ?」
「えーっと、それはどうしてかって言うと…」
上手く言葉が浮かんでこなくて、とにかく頭の中で考える。
うーんと、あっ!
「そう!廉は私の能力を嫌がることもなく普通に信じてくれたから。だから私、廉のこと信じられるんだ。私の言ってること、本当だって廉なら分かるでしょ?」
私は廉の瞳を真っ直ぐと見つめた。
伝わるはず…!
沈黙が一分、二分…。
時計の秒針が刻む音でさえ、長く感じられた。
私の心臓もドキドキと高鳴っていく。
(廉…)
その瞬間、表情が読み取れないような、真顔でいた廉がほんの一瞬笑った気がした。
「…お前真っ直ぐすぎるだろ。…けど、一瞬思ったよ。この能力で良かったってな」
「廉…!」
伝わったんだ!
胸がきゅっーって嬉しくなると同時に笑顔がこぼれるのが自分でも分かった。
「かっ、勘違いするなよ?俺は別にお前のこと…」
「私のこと?」
「な、なんでもねぇよ!それより、次にイメージしたのはどこだったんだ!?」
若干キレ気味の廉を見て、なんとなく安心する。
「うーんと…確かホテルとかでよく見る、スーツケースとかの荷物を運ぶ台車かな」
『それならさっき、ロビーの入り口に置いてあったのが映ってたけど』
と、どこまで聞いていたのか分からない瀬那の言葉に従って、私達はロビーに戻った。