脱出ゲーム ~二人の秘密の能力~
「…全然ないっ!どこにあるの!?」
カウンターの開いた棚の前で、私は頭を抱え込む。
「こっちもないみたいだ」
スタッフルームから出てきた廉も、暗い表情で口にする。
自分達で見つけろ。
その指示通り、色んな所を探しまくってるのに、暗号はどこにも無かった。
『こっちも監視カメラで色々見てみたけど、それらしい物は特には無かったわ』
『そんなぁ…』
がっくりと、ヒザに力が入らなくて座り込む。
監視カメラを見ても見つからないなんて…。
一体どこにあるの!?
時間も無いし…。
「あぁ、もう!」
頭を掻きむしって、そんな叫びを上げてしまう。
イライラが募って心の奥が痛い。
一体どうしたら…!
その瞬間、ある言葉がふいに全身をかけ巡った。
(緊急事態こそ落ち着け。)
パパの口ぐせ。
そうだった。
こういう時こそ落ち着かないといけないのに。
船に閉じ込められたばかりのことを思い出して、すうっと、深呼吸をする。
どうにかここまで来れたんだもん。
私だったら、絶対に見つけられる…!
私は決意の拳を握りしめた。
「…せめて、何かヒントがあればなぁ」
そんな私の決意などお構いなしに、廉がつぶやく。
「ヒントかぁ…」
ここまでして見つからないってことは、どこか隠れた場所にあるってことだよね。
それだけ難しいんだったら、確かにヒントがあってもいいような気がするけど…。
…もしかして、この部屋にもうヒントが紛れ込んでるとか?
ハッとして、私はあたりを見渡す。
「どうした?」
そんな私を見て、廉が聞いてくる。
「ねぇ、廉!この辺でいつもと変わってるところ無い!?」
「えっ?そういえば、変わったところがあるような…無いような…」
どっちなのよ!
廉の記憶を待てず、私は考える。
何か変わったところ…。
あぁ!でも、元が分からないし…。
私がロビーに来たときは…。
そこまで思い出してハッとした。
「そうだ、カメラ!」
ポケットに閉まってたデジタルカメラを取り出して操作する。
最初にここに来た時、何枚か写真を撮ったから…。
「…あった!」
デジタルカメラの画面には、ロビー全体の写真が映っている。
これと、見比べれば分かるはず…!
「…プリンター」
「えっ?」
いつの間にか、のぞき込んでいた廉がつぶやいた。
…て、近い…。
緊張しそうなので、数歩遠ざかる。
「そこのカウンターにある、プリンターがこの写真には無い」
「あっ、本当だ!それじゃあ…!」
私達はうなずきあって、カウンターの上に置いてあるプリンターに向かって駆け寄る。
けど…。
「…なんもないよ?」
プリンターの周りには暗号らしいものはなにも見当たらない。
プリンターも別によくみる感じだし…。
「もしかして…」
廉が気が付いたようにそう言うと、プリンターの電源ボタンを押した。
その直後、
「ガッガッガッガッ!」
大きな音を立ててプリンターから、一枚の紙が印刷されてきた。
「電源が入ってなかったのか」
「…あっ、暗号だ!」
出てきた紙を見た瞬間、そう叫んだ。
何の確信かは自分でも分からないけど、そんな気がした。
紙には、青いインクで文字が書かれている。
【次の言葉、あかくしなさい。 あんいん 】
「あかくする?…この青い文字を?」
どういうことなんだろう…。疑問が頭の中で渦を巻いていく。
「まさか、このプリンターで赤く印刷しなおすとかじゃないよね」
さっきの暗号みたいに目の前にあるものがヒントになるなら、可能性もあるかもしれないけど…。
「それはないだろうな。このプリンター、青以外の色はほとんど残量がないみたいだし。だからそもそも印刷できないと思うぜ?」
プリンターの液晶スクリーンを操作しながら廉が言う。
「じゃあ、どういうことなんだろう…」
時間もないし、なるべく早く解きたいけど…。
全然思い浮かばない…。
「最終問題だけあって難しいのかもな」
「うん…。どうしたら、赤くなるんだろう…」
青い文字が赤くなるなんてこと、あるのかな?
『あかくしなさい…。か』
ん?
ふと、瀬那の言葉に違和感を覚えた気がした。
でも、一体何にそう思ったんだろう…?
「なあ、ここなんか変じゃないか?なんで赤だけ漢字じゃないんだ?」
横から覗き込むと、廉が指でカードのあかの部分を指していた。
「そういえば…。確かになんでなんだろう?」
『それって、色の赤ではないんじゃない?違う意味があるのかも』
「色じゃないあか…?次の言葉をあかくしなさい…あかくしなさい。…あかくしなさい?」
やっぱりなんか変な感じ…。
なんなんだろう…。
もう一度ゆっくり言葉にしてみる。
「あかくしなさい」
その瞬間、もやもやとした霧が一気に晴れ渡った。
心に真っ青な青空が広がっているような、そんな気がした。
「…この暗号、解けたよ!」
自然と口角が上がったのが自分でもわかった。