脱出ゲーム ~二人の秘密の能力~
私たちの能力
その瞬間だった。
飯田さんの手の中にしっかりとあったはずの爆弾のスイッチが、急に私の胸に飛び込んできた。
「わっ!」
びっくりしながらも、なんとか落とさずにキャッチする。
「な、なんなんだ!」
「どういうことだ?」
飯田さんと廉が困惑した表情を見せる。
もしかして…。
私はある一つの可能性に気が付いた。
「…瀬那?」
そう言うとともに、後ろを振り返る。
「…間に合ったね」
そこには、開いたドアの取っ手を持ったまま、息を切らす瀬那の姿があった。
「まさか、お前も…!」
飯田さんが気が付いたような、恐ろしいものでも見たかのような顔で瀬那を指さす。
「えぇ。私も超能力者なのよ。直接、物に触れなくても物を移動したり浮かばせたり、動かしたりすることができる能力。通称、サイコキシネス」
額の汗を手でぬぐいながら瀬那が二ッと軽く口角をあげて口にする。
瀬那、すごい汗…。
それに息も切れてるし。
そういえば…。
昔パパに言われたことを思い出した。
サイコキシネスは遠くのものを動かすから、とてつもないエネルギーを消費するんだって。
瀬那はいつだって決して口にしなかったけど、やっぱりすごいエネルギーがいるんだ…。
ふらふらとしながらも、意志の固い足取りで瀬那が近づいてくる。
「絶対に死なせないわ。罪のない二人も。罪を犯したあなたもね!しっかりと償ってもらうんだから」
瀬那が力強くそう言うと、飯田さんは下唇を噛み締めて涙を目に浮かべた。
それが、どんな意味の涙なのかは私には分からなかった。
けど、その顔を見た廉が口を開いた。
「…飯田、いつも俺に言ってくれたよな。人は時々間違える。けど、何がいけなかったかちゃんと反省すれば、前へは進めるって。…俺もそう思うよ」
廉は飯田さんの手を取って優しく微笑んだ。
「私も、そう思います。ほんの少しだったけど、飯田さんに船を案内してもらってるときも、廉と謎をといてるときも楽しかった。飯田さんには出来ることがまだまだたくさんあると思うんです!」
船内を案内してくれていた時の飯田さんは心から楽しんでた。
あのときの笑顔は、決して悪い人なんかじゃなかった。
心から楽しんでる人の笑顔だった。
飯田さんは私と廉の顔を交互に見て、それから思いっきり声を上げて崩れるように泣いた。
「…すまない、俺…」
「ったく、最後まで人騒がせなんだから…」
呆れるように、でも安心した笑みを浮かべてため息を吐く瀬那に思わず飛びつく。
なんだか感動して、目の奥が熱くなる。
「瀬那、良かった!…でも、どうやってここまで来たの?」
だってここは海の上。
そう簡単に来れるはずないよね。
「お前、まさかさっき呼んだヘリに便乗してきたのか?」
「まあね」
さっき呼んだヘリというのは、廉に協力してもらって瀬那が連絡した三崎グループの自家用ヘリコプターのこと。
廉が自家用ヘリを持ってるだけでもびっくりなのに、まさかそれに瀬那も乗って来るなんて…。
そんな風に驚いていると、いきなりドアがバンッと開いた。
「廉さん!大丈夫ですか!?」
スーツ姿の男の人が数人駆け寄ってくる。
廉さんってことはもしかして護衛の人とか?
さすが、お金持ち…。
「お前ら…。あぁ、もう大丈夫だ」
そう言う廉の目には涙が浮かんでいたような気がした。
「…もしかして泣いてんの?」
「なっ。んなわけないだろ!…まあ、でもありがとよ。七瀬」
頬を赤らめながら廉が言うので、私の胸の音と体温が急上昇していく。
自分でも、皮ふが熱いのが分かったくらい。
「あらら?」
私と廉を見比べた瀬那がニヤニヤとこちらを見てくる。
「…うぅ、瀬那、早くかえろ!爆弾がある所になんてもういたくない!…けど、こっちこそありがとうね、廉!」
私が微笑むと、廉がそして瀬那が微笑み返した。
その笑顔は、脱出の成功を意味する最高の笑顔だった。