脱出ゲーム ~二人の秘密の能力~
緊急事態発生!?
「うわぁっ!すっごく広いし、キレーイ!」
部屋に入った瞬間、私は写真を撮るのも忘れて、走り出すように部屋を見渡す。
スイートルームということもあってその部屋はあまりにも大きかった。
真っ白の壁紙が続く廊下の先に広がる広々としたリビングにはL字型のおっきなシックな黒のソファ。
ソファの正面の壁には見たことのないくらい大きなテレビもある!
そして…
「海だぁ!」
これまたガラス張りの大きな窓には一面海が広がっていた。
太陽の光が波に反射してきらきらと宝石のように輝いている。
こっちは港とは反対側だから海が見えるんだぁ。ラッキー!
「あっ、こっちにも部屋があるんだ!」
私は窓の横にある扉を開ける。部屋には見るからにふかふかのベットが二つ並んでいた。
「本当にホテルだよ!」
他にもガラスで区切られた私の部屋よりも全然ひろーいバスルームに、きれいなメイクルーム、パパがよく使いそうな机やいすが並ぶ部屋、それにキッチンまでもあった。
「さっすが、スイートルームって感じ!…そういえば、飯田さんどうしたんだろ?あれから結構時間たってるよね?」
最後にリビングから見える海の写真を撮り終えて、ふとそんなことをつぶやく。
年季の入った腕時計に視線を移すと、すでに別れてから20分が経過していた。
案内してくれる場所ももうここが最後のはずだけど…。
と、その瞬間だった。
突然部屋中、いやこの船中にけたたましい警報音が鳴り響いた。
「な、なに!?」
びっくりして、思わず倒れるようにソファに座り込む。
『船内の全従業員に告げます。緊急事態が発生しました。ただちに業務を終え、船内から出てください。繰り返します、緊急事態が…』
真上のスピーカーから緊迫した声が降り注いでくる。
なにか尋常じゃないことが起きているのはまるわかりだった。
緊急事態…!
突然のことに一瞬パニック状態になりそうになるけど、どうにか自分を正気に戻す。
「と、とりあえず私も船から出ないと!」
廊下を走って、慌てて部屋の入口のドアノブに手を掛ける。
だけど…。
「えっ、ウソでしょ。開かない!」
扉はびくともしなかった。
「なんで!?」
そう言った瞬間、横の壁にあった機械に目が留まった。入り口にもあった、カードをかざしてカギを開ける機械。
もしかして、あのカードがないと開かないの!?
「すみませーん!誰かいませんか!?」
すぐに頭を切り替えて、思いっきりドアをこぶしで叩いて大声をあげる。
「すみませーん!すみませーん!!」
だけど、何度叫んでもその声は誰にも届くことはなかった。
そういえば、この近くに人気はなかった。
スイートルームに入ってくる前に見た光景を思い出す。
「どうしよう、どうしよう!」
頭を抱えたまま、ぐるぐると回っていると部屋にある固定電話が目に入った。
「あっ、電話!」
わらにもすがる思いで電話を手に取る。
これで誰か助けを呼んで…!
けど、私の耳にはツーツーツーとした音が響くだけだった。
つながってない…!
「あとほかに方法は…」
焦る気持ちのまま、部屋中を見渡す。
「窓!」
飛び込むように慌てて駆け寄るけど、そこで気が付いた。
「海…」
目の前には人なんていない。あるのは荒い波の漂う海だけだった。
ここから叫んだって誰にも声は届きそうにない。
ここは11階。高さもかなりあるから飛び込むのも危ないし…。
これが港側だったら…。
さっきのラッキーを悔やんだ瞬間、絶望感に襲われる。
「ほかに方法も…ありそうにないし」
どうしよう、どうしよう…!
ていうか、緊急事態ってなんなの!?
沈没?事件?
もしかして、私このままずっと出られなくて死んじゃうの?
一番最悪なケースを想定して完全にパニックになる。
「どうしたらいいの…!」
だけどその瞬間、いろんなものが散らかった頭の中に一筋の光が差してきたように
ハッとした。
緊急事態こそ落ち着け、それがパパの口癖だった。
そうだよ、脱出ゲームの主人公だっていっつも落ち着いてたじゃん。パニックにな
ってたら何にもできないよ。
私は目を閉じて深呼吸をする。
大丈夫、私ならできる…!
ここから脱出できるよ!
そう思った瞬間、パニックになった頭も、胸のどきどきも落ち着いた。
「よし、まずは状況確認だよね」
いつもゲームをやるときみたいにつぶやいてから辺りを見渡す。
「まずドアはカギがかかっていて出られない。窓も無理。助けを呼ぶにしても電話はつながらない…って、ん?」
その瞬間気が付いた。
そうだ、私にはまだ“あれ”がある!
焦りすぎてて気づいてなかった。
科学的には存在しないといわれている私の秘密。
あれを使えばきっと…!
「よし、やるぞ」
私は心を決めて、一度大きく深呼吸する。
涼しい空気が口から全身に巡りわたる。
うん、きっと大丈夫だ。
心の中でそう思いながら、瞳を閉じて全神経を集中させる。
『聞こえる…?瀬那…!』
頭の中で瀬那の名前を呼び続ける。
普通に考えたらこんなことしても、相手には届かないし、何の意味もないって思うかもしれない。
けど、私たちは違う…!
『…七瀬?一体何なの?』
けだるそうな瀬那の声が頭全体に響き渡る。
夢でも、妄想でもない。
私の呼びかけに瀬那が答えられる。
そう、私たちは超能力、相手の心の内容が直接自分に伝達される、テレパシーが使えるのだ。
私達がお互いその能力に気が付いたのは五歳の誕生日を迎えた日。
そしてこの能力は不思議なことに私たち双子同士でしか使えない。
二人がどんなに離れていても使えるけど、瀬那にしか私の声は届かないし、瀬那の声しか私にも届かない。
だから今までほとんど使ってこなかったけど、まさかこんなところで役に立つなんて!私は落ち着いて話せるように、一度大きく息を吐いてから口を開いた。
『あのね瀬那、聞いてほしいんだけどね…』