昨日、あなたに恋をした
 対面キッチンに立つ誠孝は真剣に蒸らし中の珈琲を見つめている。

 その横顔を眺めながら日子は、カフェにこんな店主がいたら、うっかり通いつめてしまいそうだ、と思っていた。

「東城」
とドリッパーから視線を上げ、誠孝が訊く。

「その怪しい女の写真はないのか」

「いや、女性を隠し撮りするのはちょっと」
と東城は真っ当なことを言う。

「じゃあ、今度、その女を見かけたら、すぐに俺に連絡してくれ」

 そう誠孝は東城に言った。

 案の定、犯人を見つけに来たはずが、みんな日子の部屋を見たり、インスタはこんな感じ撮っている、という話を聞いたりしただけで、満足して帰って行った。
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