昨日、あなたに恋をした




 数分後、香椎は日子の会社のエントランスにいた。

 幸い、今日の警備員は、スマホで孫の動画が見られなくて困っていたのを助けてあげたおじさんだった。

「おはようございます」
と挨拶すると、

「おや、またここで働くの?」
と嬉しそうに言われる。

「いえいえ。
 今は代理店で働いてるんですけど。

 今日はちょっとしたお使いで、資料持ってきたんですよー」
と言って、中に入れてもらった。

 日子がいるだろうフロアに行ってみる。

 ここへ来るかどうか、かなり迷っていたので、もう始業時間は過ぎていた。

 シックなカシュクールブラウスから覗く鎖骨も美しい楓日子が、にこやかに電話でなにか話している。

 今の自分にそう不満はないけど。

 ああいう風な人生にも憧れるな~とか思ってたから、余計、悔しかったのかな。

 そんなことを思いながら、香椎は廊下から日子を眺めていた。
< 334 / 535 >

この作品をシェア

pagetop