昨日、あなたに恋をした
 にこ、と日子は佐藤と名乗る鈴木と、香椎に向かい微笑みかけると、鈴木の襟首をつかみ、引きずっていった。

 助けてっ、と鈴木は香椎を見たが、香椎は、許してっ、と日子の迫力に青ざめたまま、鈴木を見捨てる。

「……これはひどい」

 思わず、香椎は呟いていた。

 そんなはずないのだが、日子は紅茶の香りを嗅ぎながら、焼き菓子をつまみ、ふふふふ、と仕事していると勝手に思い込んでいた。

「確かにこれはひどい……」
と苦笑いする声が真横で声がした。

 手入れのいいショートカットの、可愛らしい女子社員が何故か自分のボブカットの髪を見ながら言う。

「日子さんたちの仕事、一瞬も気が抜けないくらい大変なんですけど。

 でも、日子さん普段は、私たち新入社員が仕事に怯えないよう、全然大変じゃないよ、この仕事って感じに振る舞ってくれてるんです」

 いや……この惨状を一度でも見たら、大学卒業したての新人くんたちはビビってしまうと思うが……。

 彼女にもそれはわかっているようで、こっぴどく彼らを叱ったあとで、一緒に部長に謝りに行く日子を見ながら笑って言う。

「まあ、ちょっと抜けてるところもあるんですけど。
 でも、そんな日子さんが私は好きです」

 そのとき、真後ろからも声がした。
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