昨日、あなたに恋をした
「それはおめでとうございます」

 おばあさんの米寿の祝いなのに、スペイン料理でいいのだろうかと思っていたのだが。

 おばあさん自身がスペイン料理が好きなのだということだった。

「暇を見つけては海外行ってるような、ばあさんだからな」

 新太はそう言ったあとで、
「日子がばあさんを迎えに行って連れてくるんだ」
と突然、日子の話題を出してきた。

 誠孝はようやくそこで気がついた。

 そういえば、ここまで一度も日子の話が出ていない。

 自分と新太は、日子を介しての知り合いのようなものなのに、ちょっと変だな、とこの時点で思った。

 新太が炭酸水の入ったグラスを手に、満席のカウンターの方を見ながら訊いてくる。

「シゲタカ、お前のところの社報は見たか」

 ……うちの社報ですからね。
< 352 / 535 >

この作品をシェア

pagetop