水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~
最近山に蛇が頻繁に出るようになった事もあり、「やはりこの村の神様は蛇だったのだ」「蛇神様を殺した祟りが、今になって溢れてきたのだ」「矢鏡神社を壊せば天気も良くなるはずだ」そう言って、矢鏡神社の取り壊しが決まったのだ。
村にはほとんど下りない生活をしていた優月にとって、神社の取り壊しの決定を知ったのは、着工の日であった。
「何をしにきたのですか?」
いつものように、朝のお参りをしている時に村の男たちが、怖い顔をして矢鏡神社に現れたので。その様子にただ事ではないことを察知して、優月は強い口調で問いただした。
「矢鏡神社は壊す事になった」
「こんな祟り神はいなくていいのだ」
「た、祟り神!?矢鏡様が、何故?壊すなんて、とんでもない!!」
「これは村の決定事項だ。あんたは村人ではないんだ。関係ないだろう?」
「関係ありますとも!私は左京様、矢鏡様に助けられたのですから」
彼らの行く手を阻むように、小さく欲しくなった体で両手を広げて、仁王立ちをして男たちを睨みつける。
けれど、若い男相手に老いた優月が叶うはずもない。体を押されただけで、そのまま倒れてしまった。
そのまま、刀や石斧で矢鏡神社を壊しに近づく男たち。
優月はそれに黙って従うつもりはなかった。
自分や村の人達を守ってくれた左京。それを神として祀ったのは村の人間だ。
それなのに、今度は悪天候が続くのは矢鏡神社のせいだと濡れ衣を聞かせて悪者扱いをし始めるなんて、勝手すぎる話だ。
矢鏡神社がなくなってしまえば、神になった左京の魂はどうなるのだろうか。消滅してしまうのではないか。
それが恐ろしくてしかたがなかった。
左京様がいなくなるのを、また見ているだけなのか。
今度こそ、私が。
今度は、私が守るのだ。
「お前たち、ここから去るんだ!!」
「な………何を言って、おい!何をしているッ!」
「矢鏡様を傷つける者は、許しはしないっ!!」