水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~
「誰がお前と取引など交わすものか」
「コノ女ノ取引ヲ破綻ニスル、ソンナ条件デモ、カ?」
懐にしまっていた割れた鏡の破片を取り出し、蛇神の化身である煙に投げつけようとした時だった。
蛇神の言葉に、矢鏡は思わず目を見開き、体の動きを止めてしまった。
きっと善くない事が条件であるとはわかっている。
けれど、それは矢鏡が何が何でも叶えたかったものなのだ。
「…………それは、本当か?」
「興味ヲモッタカ?デハ、私ト取引ヲシヨウ。ナァニ、悪クナイ条件ダ」
笑うはずもない蛇の顔が、ニヤリとした怪しい笑みを浮かべなように見えたのは、矢鏡の気のせいではないはずだ。
矢鏡は揺れる黒い煙を睨み返しながら、蛇神の次の言葉を待った。
その瞬間はやけに長い時間に感じた。