水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~
木藤の噂話をすっかり信じてしまった矢鏡は、すっかりご立腹な様子で、紅月の手を強く引いく。それに合わせて、当然体は動いてしまう。が、木藤は紅月が突然体を動かしたようにしか見えないのだ。「紅月ちゃん?どうかした??」と木藤は目を丸くしながら、紅月の様子を見つめている。急に体が後ろに押されたように動いたのだ、驚くに決まっているだろう。
「ご、ごめんなさい!急用を思い出して、またお邪魔しますッ」
「う、うん。気を付けてー」
慌てて外に出た紅月を、木藤はぽかんとした表情で見送る。そして、「もしかして、束縛系男に捕まったんじゃ…」と、何故か全く見当違いの心配をする木藤の言葉を2人は知る事はなかった。
「矢鏡様、どうしたんですか?自宅で待っててくださいとお話したのに……」
「あんな狭い場所に何時間もいてもつまらないだろ。昼頃から近所を散歩していた。そうしたら、紅月を見つけたのだ」
「散歩って……。自宅からここまで電車で3駅もあるんですよ」
歩いたら数時間はかかるだろう距離を矢鏡は歩いてきたというから、紅月は驚いた。けれど、神様というのは疲れないのだろうか?と疑問も残った。
「そんな事はどうでもいい。おまえは、人間の男に人気があるのか?」
どうしても気になるようで、紅月の話題をすぐに終わらせて質問してくる。紅月は苦笑いを浮かべるしかない。