水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~
「俺が呪いを払ってやる。その代わり、俺の嫁にならなれ」
「………よ、嫁っ!?ですかっ?……神様のお嫁になんて普通の女がなれるはずがないですよ。それに、あなたの事を私は知らないのに……」
「これから知って好きになればいい。俺がいなくなる時はおまえもいなくなる時だ。そうなれば神も人間も関係はない」
「……それはどういう……」
「とりあえず、握り飯をくれ。このままだと嫁を貰う前に本当に消えそうだ……」
「え、神様っ!?」
好き勝手な事を言ったまま、鎮守神はソファの座ったままずるずると体が丸くなり、ついには頭がひじ掛けのところまで来て、体が落ちてしまいそうなど脱力してしまったのだ。
「お腹が空きすぎて死にそうだ………」
もう死んでるでしょ、というありきたりな台詞をどうにか飲み込んで、紅月は困り顔で神様を見つけた。先ほどまで銀髪の彼は神々しという言葉が文字通りぴったりだったが、今はただの青年のようだった。24歳の紅月と同い年ぐらいだろう。
ごみ捨て場で出会ったのは訳ありの神様。
そして、神様からの死の宣告と求婚。
そんな奇妙な縁をもたらしたかもしれない紅の月は、鎮守神の背中でただただ2人を見守っていたのだった。