水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~
「うまいな。おまえが作る握り飯は」
「………おにぎりを褒められましても……。それはコンビニで買ったものなので……」
「あぁ、あの夜でも光っている店だな。知ってるぞ」
コンビニのおにぎりを買って目の前の神様に渡すと、3つをあっという間に食べ終えてしまった。初めて食べたというシーチキンマヨネーズの味が気に入ったようで、「今度もこれが食べたい」と上機嫌だった。
結局、紅月は空腹で倒れそうだった神様の手を引いて歩いた。神様の体はふわふわと浮いており、全く重くはなかったが、神様と手を繋ぐという行為自体が不思議な気持ちだった。
コンビニの近くの公園は大きく、夜中にランニングをしている人も多かった。
けれど、おにぎりを膝の上に置いて、神様と話しをしていると、ランニング中の人々に怪訝な表情でジロジロと見られてしまう。
やはり、神様は普通の人には見れないようだ。
「それで、どうする?紅月。俺の嫁となって助けを求めるか?」
「私の名前まで知ってるんですね」
「神様だからな。……と、言いたいところだが、おまえだから知っている。先ほど話しただろう?俺にはおまえしかいないのだ」
「その意味がわからないんですけども……」
女性にそんな台詞を伝えたら立派なプロポーズになってしまうような甘い言葉だが、神様が言う理由は違うのだろう。
その言葉の意味が、理解出来なかった。
けれど、先ほど「嫁になれ」とも言われたので、そういう意味もあるのだろうか。