水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~
なるほど。
どうやら、この神様もわかっていなかったようだ。
紅月は、人間の結婚式というのを思い浮かべてみる。
家族や親戚を集めてお祝いをしてもらい、誓いのキスを交わし、結婚指輪を互いにつけあう。そんな説明をしようと思い、寸前で止める。
家族や親戚に神様と結婚しますなど、言えるはずもない。家族は皆、霊感があるわけではないので、見えるはずもないのだから、頭がおかしくなったのではないかと心配されるだけだろう。
それにキスをすると伝えれば、あの神様の事だ。深い意味など考えずに喜々として口づけをしてくるのではないか。
そうなると消去法で伝える事は1つだけになる。
「……えっと。結婚の証として指輪を交換します」
「ほう。酒の飲み交わすのではないのか。今の結婚はずいぶん変わったのだな。それで、どんな指輪だ?」
「一般的には銀を使ったお揃いの指輪とかでしょうか?」
「なるほどな。あまり力は使いたくないが、せっかく夫婦になるのだ……」
そう言うと、神様は自身の白い手を握りしめ、自分の息をフーッと吹きかける。
その後に「銀の花をさかせたもう」と、小さく澄んだ声で自分の手元に語り掛ける。
「指輪はどこの指につける?」
「左の薬指です」
「では、紅月。手を出せ」
「……はい」
おずおずと神様に向けて手を伸ばす。神様は冷たい手で紅月の手を優しく取り、左手の薬指に触れる。
「俺は神の力を持って、紅月を守ると誓おう」