水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~
四章「わたしの神様」
二十一、
二十一、
頭が痛い。
神と言う存在になってから、身体の痛みなど感じることなんてなかったというのに、昔の事を考えると頭がズキズキと痛み、映像がボヤけてしまう。
そして、考えまいというように、矢鏡が人間だった最後の頃を思い出させるのだ。
矢鏡の過去はそれしかないかのように。
それにもきっと理由があるのだろう。
全て、紅月の嘘に隠れされているようだ。
早く彼女に会わなければいけない。今すぐに、紅月に。
そんな想いで、ゆっくり移動する事はせずに、曇り空の中を飛び、彼女が働く弁当屋へと向かった。夕方に近い時間だが、まだ仕事をしているだろう。けれど、そんな事など今は関係ない。緊急事態なのだ。
ただでさえ、紅月に命の危険が近づいているのだ。一刻も早く、紅月から話を聞きださなければいけない。
店先からその弁当屋の様子を伺う。
仕事や学校帰りの人達が訪れるには、まだ早い時間なので店内は空いている。そのため、中の様子はガラス窓からでもよく見えた。けれど、接客担当である紅月の姿はそこにはなく、代わりに年配の女性と、調理用の白い服を着た男性が、話し込んでいるのが見えた。紅月は遅い休憩時間なのだろうか?と、考えたが、もう少しで働きに出ている時間は終わるし、2人の深刻な表情があり矢鏡はどうも気になってしまった。そのため、矢鏡は店内に入って2人の話を聞いてみる事にした。
「どうしたのかしらね」
「あぁ、心配だな………」
ため息をつきながら、店員である年配の2人は話しを続けていた。何かあったのはよくわからない。けれど、店内に入って来た矢鏡に気付いていないため、ここで矢鏡が「何があったのか教えてくれ」と声を掛けたかったが、話しをしたとしても彼らにその声は届く事はない。自分の立場がもどかしくなる。何か物を持って移動させていることをわからせたとしても、逆に人間達を怖がらせるだけだ。ここで、紅月の話をするのを黙って待っているしか方法はないのだ。
長い時間かかるかと思ったが、その機会はすぐに訪れた。どうやら、まだ話題は変わってはいないようだ。