水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~
人身御供の鉄板の決まりである、男との交わりを持たない純潔の娘。
それが蛇神が求めた条件であったようだ。紅月は何人もの男に想いを告げられていたのに、全く相手にしなかったのはこのためなのだろう。好きな相手をつくったとしても、結ばれる事はないのだ。そして、25歳で死ぬことは決まってしまっている。そうなれば、人との交流も極限まで少なくするはずだ。別れが寂しくないように。だからこそ、紅月は贅沢もせず質素に静かに過ごしていたのだろう。家族と離れ、ほとんど友達も作らずに25歳まで純潔を守りながら静かに生きていき、神社を参拝し矢鏡のために命を捧げる。
記憶を消されてたとはいえ、それを知らずにのうのうと過ごしてきたのだ。それで何が神様だ。自分の不甲斐なさに怒りが湧き上がってくる。
「……それと、あと1つ」
「まだ条件があるのか?」
「5回生まれ変わった後は呪いはおしまいになるんです。今回がそれでおしまいです」
「そうなのか!?じゃあ、もう25歳で死ぬことはないのか。それは安心したが。でも、今回だって死なせはしないけどな」
「ありがとうございます。左京様。……でも、呪いはつきませんが、その前に私という存在がいなくなるのです」
「……それは、どういう事だ?」
「5回目の生まれ変わりの時。25歳になったら体だけではなく、魂ごと蛇神に食べられるという約束なのです」