転生聖女の異世界スローライフ~奇跡の花を育てたら魔法騎士に溺愛されました~
スーリアはその日、パン屋の売り子を三時間ほど手伝った。パンも花も売れ行きは今日も好調で、スーリアが売り子をしているうちにほとんど全部売れた。帰り支度をしようと店の外のバケツを片付けに行ったスーリアは、ふと視界の端に動く物を見つけて足を止めた。
レッドハットベーカリーの正面にはスーリアの実家の野菜をよく卸す青果店がある。その店の前には果物が乗った手押しワゴンが停められていた。スーリアはワゴンの下をのぞき込むようにしゃがみ込んだ。目を凝らすと、もぞもぞと動く毛玉が見える。
「猫だわ! 猫ちゃん、おいで!」
ワゴンの下には茶色い猫がいた。縞々模様がついた、トラ猫だ。まだ子猫のようで、毛はふわふわのうぶ毛で体つきも小さい。スーリアが手を伸ばしてチチッと舌を鳴らすと、猫はおずおずとワゴンの下から抜け出してきた。そっと触るとふわりと触り心地がよい。
「可愛いわ。お前はどこかの飼い猫かしら?」
スーリアは子猫に尋ねたが、子猫は答える代わりに首をかしげてみせた。