砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎

「……え、えーっと……」

突然のことに、なかなか言葉が出てこない。

「あ、そうだ!た、確か……『イブン・マーリク』さんとおっしゃいました……よね?」

だったら、普通は「イブン」と呼ばせるのではないのだろうか?


「Lulu… What are you talking about?」
〈ルールゥ…なんて言っているんだ?〉

マーリク氏が顔を(しか)める。

——あれ? もしかして、日本語は先刻(さっき)ので終了?

どうやら、彼にはあたしの言ってることが通じてないみたいだ。

「I learned Japanese from Atif who was my passenger on the way here. So I can't tell you that much yet.」
〈ここに来る道すがら、同乗していたアーティフに日本語を教わった。だから、まだそんなには話せない〉

——『アーティフ』?


奥様(アキーラ)

奥さんのファティマさんとともに控えていたムフィードさんが、あわてて駆け寄ってきた。

「『イブン』はアラビア語で『息子』です。
なので、『イブン・マーリク』は『マーリクの息子』です」

「えっ、そうなの?」

ロシアの人たちがお父さんの名前を第二のファミリーネームのように使う「父姓」みたいなものかな?

「From now on, you must not call me by my father's name.」
〈金輪際、私を父の名で呼ぶな〉

マーリク氏は忌々しげに吐き捨てた。

——ということは、あたしは今まで彼のことをお父さんの名前で呼んでいたんだ。

「I’m sorry…」と言いかけると、ムフィードさんから制される。

「こちらではよくあります。
私は『アーティフ・イブン・ムフィード』です」

ということは、ムフィードさんの正式な氏名は「ムフィードの息子、アーティフ」というわけだ。

だから、マーリク氏はムフィードさんを『アーティフ』と呼んでいたのだ。

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