砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎
男たちは、あっという間にマーリク氏に駆け寄ったかと思うと、そのうちの何人かで彼の身体を頭上に担ぎ上げた。
「きゃあぁっ⁉︎ か、彼を……どうする気っ⁉︎」
あたしはマーリク氏に向かって手を伸ばし、思わず日本語で叫んだ。
「ちょ、ちょっと……だ、だれか……っ!彼を助けてっ‼︎」
あたしは周囲を見回し、声を張り上げる。
だが——だれも助けようとしない。
「Don't look at me!…My Lulu」
〈こっちを見るな!…私のルールゥ〉
マーリク氏があたしを慮って制した。
——そ、そんなぁ……っ!
このままでは、彼はとこかへ拉致されてしまう。
「ラ…ラジュリー……ッ!」
あたしは声を限りに彼の名を呼んだ。
「…Ma'am!」
〈…奥様!〉
運転手のワファーさんが飛んできて、あたしの目の前に立ちはだかった。
「You'd better listen to our sayyid. I'll take you the way. Could you please follow me?」
〈御主人様のおっしゃることをお聞きになった方がいいです。わたしが奥様をお連れします。どうぞこちらへ〉
「で、でも……っ!」
あたしは後ろ髪を引かれるように、ワファーさんを避けて身を乗り出そうとする。
「Ma'am,you mustn’t see over there!」
〈奥様、向こうを見てはいけません!〉
彼女は身を挺して、匿うようにあたしを引き止めた。
ファティマさんも駆け寄ってきた。
そして、自分の黒装束であたしの身を隠すようにしながら、ワファーさんとは反対側に回る。
それから、二人がかりであたしをこの場から連れ出そうとする。
「ま、待って!ラ、ラジュリーが……っ!」
あたしはなおも叫ぶが、抵抗しようにもワファーさんがものすごい力であたしを抱えるようにして、反対側に建つテントの方へと足早に向かっていく。
なぜか、あたしの方へは追手は来なかった。