砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎

男たちは、あっという間にマーリク氏に駆け寄ったかと思うと、そのうちの何人かで彼の身体(からだ)を頭上に担ぎ上げた。

「きゃあぁっ⁉︎ か、彼を……どうする気っ⁉︎」

あたしはマーリク氏に向かって手を伸ばし、思わず日本語で叫んだ。

「ちょ、ちょっと……だ、だれか……っ!彼を助けてっ‼︎」

あたしは周囲を見回し、声を張り上げる。

だが——だれも助けようとしない。


「Don't look at me!…My Lulu」
〈こっちを見るな!…私のルールゥ〉

マーリク氏があたしを(おもんぱか)って制した。


——そ、そんなぁ……っ!

このままでは、彼はとこかへ拉致されてしまう。

「ラ…ラジュリー……ッ!」

あたしは声を限りに彼の名を呼んだ。


「…Ma'am(アキーラ)!」
〈…奥様!〉

運転手のワファーさんが飛んできて、あたしの目の前に立ちはだかった。

「You'd better listen to our sayyid. I'll take you the way. Could you please follow me?」
御主人様(サイイド)のおっしゃることをお聞きになった方がいいです。わたしが奥様をお連れします。どうぞこちらへ〉

「で、でも……っ!」

あたしは後ろ髪を引かれるように、ワファーさんを()けて身を乗り出そうとする。

Ma'am(アキーラ),you mustn’t see over there!」
〈奥様、向こうを見てはいけません!〉

彼女は身を挺して、(かくま)うようにあたしを引き止めた。

ファティマさんも駆け寄ってきた。

そして、自分の黒装束(アバヤ)であたしの身を隠すようにしながら、ワファーさんとは反対側に回る。

それから、二人がかりであたしをこの場から連れ出そうとする。


「ま、待って!ラ、ラジュリーが……っ!」

あたしはなおも叫ぶが、抵抗しようにもワファーさんがものすごい力であたしを抱えるようにして、反対側に建つテントの方へと足早に向かっていく。

なぜか、あたしの方へは追手は来なかった。

< 107 / 154 >

この作品をシェア

pagetop