砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎
彼——大橋 典士は、経営企画部へ異動するまではあたしと同じマンション事業販売部にいた。
二期上の彼は、あたしがこの会社に入社したときについてくれた教育係だった。
実は彼は、大橋コーポレーションの系列・大橋リゾートの大橋 世理子社長の一人息子である。
そして、世理子社長は大橋不動産の長澤社長の妹だから、彼は社長の甥っ子だ。
「こちらこそ、おひさしぶりです」
あたしは彼を見つめた。
「まだ『コンシェルジュ』の勤務も続けているそうですね」
「御曹司」であるにもかかわらず、彼は二十代の頃は本社勤務と並行してあちこちのマンションにコンシェルジュとして派遣されていた。
コンシェルジュは入居者様の「お世話係」のため、中には無理難題をおっしゃる方もいて、なかなかメンタルの削れる業務だ。
あたしは配属前の新人研修で一週間だけ業務に着いたが、あの部署に配属されるのだけは絶対にイヤだと思ってしまった。
おそらく、やがてはこの会社を背負って立つ彼に授けられる「帝王学」の一環であったのだろう。
長澤社長には一人娘がいるが、すでに結婚していて、しかも相手は広告代理店の勤務だと聞く。
畑違いの娘婿に跡を継がせる気はないということであろう。
「いやぁ、さすがに体が保たなくてね。週一が限度だよ」
少し癖のある前髪をかきあげ、苦笑する。
——そりゃそうだろう。経営企画部は激務な部署って言うもの。
それでも、彼は「現場の感覚」を忘れたくないと言って、どうしてもと社長に頼み込んだらしい。
「これからは、体に気をつけてくださいね。
もう二十代じゃないんですから、そうそう無理は利かなくなりますよ?」
童顔で、どう見ても二十代なかばにしか見えないけれども、彼は今年三十歳になる。