砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎
マスダール・シティのオフィスビルに着いた。
エアコンを効かせたモデルXから降りたとたん、もわっとした熱気に包まれる。
——うっ、暑い……
アブダビは周辺を砂漠に囲まれているが、実はペルシア湾にも接してるため、その熱気には湿度もたっぶり含まれていた。
以前旅行したことのあるアメリカのラスベガスもまた砂漠に囲まれた街であったが、空気がカラカラに乾燥していたため、たとえ一〇〇℉(約三七.八℃)以上あっても、思ったより暑いとは思わなかった。
むしろ、日差しを遮る木陰に入ると涼しいと思ったくらいだ。
——しかも、細かい砂が巻き上がっているからなんだろうけれども、なんだか埃っぽい……
あたしは、こほっ、と咳き込んだ。
「Are you OK? あの風の塔のせいです。
空の上の冷たい風、集めて、地上に流します」
ムフィードさんが指差した方を見上げると、コンクリートで造られた細長い塔が見えた。
「あれは新しいですが、この地では古いときからあります」
生温くてとても「冷たい風」とは思えないが、この灼熱の地では、昔ながらの「生活の知恵」なのだろう。
それにしても、喉がイガイガする。
この砂が舞い上がる風なら、ムスリムの女性がヒジャブを頭に巻く気持ちがよくわかる。
もしかしたら、鼻や喉を守るためには目から下も覆うニカーブの方がより効果的かもしれない。
ちなみに、髪と首を包むように巻くのが「ヒジャブ」で、「ニカーブ」のように顔を隠したりしない。
さらに、髪は隠すが首の辺りはマフラーのようにふんわりと巻く(顔はもちろん全開)のが「シェイラ」で、戒律の厳しくないアブダビやドバイでは一番フランクなこの形が主流だそうだ。
一言で「ムスリム女性」と言っても、その服装は国や地域によって結構異なる。
(イランでは「チャドル」、アフガニスタンでは「ブルカ」というふうに)
現地の人たちに粗相のないようにと、服装のことは結構調べた。
一応、トートバッグには代用できるスカーフとフェイスマスクも入れてある。
「……では、マミコさん、行きましょうか?」