砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎
الفصل ٤⏳
「……三浦さん、ちょっと一息入れたら?
朝からずっと立ちっぱなしだよ」
久保さんが自分のコーヒーを淹れるついでにみんなの分も用意して(あたしが手土産代わりに日本から持ってきたモ◯カフェだけど)その一つをあたしのデスクの上に紙カップを置いてくれた。
(社用で訪れたお客様には、ちゃんと骨灰磁器のカップでお出しするが、あたしたちは紙コップだ)
日本からこのアブダビ新都市建設事業室に配属された中では、三十代前半の彼が最年少のあたしと一番歳が近い。
「でも、あれから三日も経つのに、まだこんなことくらいしかできなくて……」
マーリク氏の逆鱗に触れ、『Get out of here immediately.』と部屋から叩き出されて以来、せめてものと部署内の雑用を一手に引き受けていた。
「そろそろ三浦さんにはホテルフロアの基本プランニングについて、マーリクCEOと話を進めてもらわないといけないんだけどね」
コーヒーを一口含んだ林室長が腕を組み、渋い顔で唸る。
アブダビ新都市建設の大型プロジェクトの一つとして、ランドマークとなる超高層タワービルを我が社が請け負うことになっていて、あたしが担当するのがホテルフロアのプランニングだった。
それでなくても、入社してからずっと「分譲マンション」畑でやってきたのだ。
イチから勉強しなければならない業務となり、あたしにとっては不安でしかないというのに……
「マーリクCEOは超完璧主義者だから、覚悟しておきなよ。たとえ最低価格帯ののシングルの客室であっても、自分の目で設計図を確認しないとGOサインを出さなさそうだからな」
PCのキーボードを打っていた前田さんがそう言って、気の毒そうな目であたしを見る。
室長代理の彼は、四十代前半の林室長より少し若い三十代後半である。
ちなみに、既婚者のこの二人は、奥様や育ち盛りのお子さんを日本に残しての単身赴任だ。
久保さんだけが独身だった。(でも、お付き合いしている彼女とは絶賛遠距離恋愛中だと言うから、彼もまた「単身赴任」のようなものだ)
現在「先遣隊」として着任しているのは、あたしも含めてまだこの四名である。
建設計画が進むにつれて人員が補充されていくとはいうものの、人手不足は否めない。
一刻も早く「即戦力」として働きたいのに。
「そうなんですね……」
あたしは肩を落とした。
——あぁ、前途多難過ぎて、もう、ため息しか出ないよ……