幸せを運ぶ尻尾
頭の中に、ふと短い足に胴長の犬が浮かぶ。レッドアンドホワイトの毛並みに、少し低めの「ワン!」という鳴き声を思い出し、棗の瞳が一瞬ぼやけてしまった。



棗とカルラは普段学校で話す仲ではない。カルラが転校して来た頃から、棗はずっとカルラを避けている。理由はカルラが犬を飼っていて、犬が大好きだからだ。

「これ、うちの子です!かっこいいでしょ?」

カルラはそう言ってクラスの友達に写真を見せることが多い。そんな会話が聞こえてくるたびに、棗は胸が苦しくなり、教室から逃げ出していた。

そんなカルラと、カルラの愛犬と、棗は引きずられるようにして歩いている。棗にとって地獄のような時間だ。

「この子の名前、ローって言います!男の子です。犬種はワイマラナーという種類です」

ワイマラナー、その犬種を聞けば嫌でも棗の記憶から犬の図鑑が引っ張り出される。思い出さないようにしていても無駄だ。必死に覚えた知識が出てしまう。
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