パパか恋人かどっちなのはっきりさせて!
24.ストーカーに後をつけられている?―助けて!
4月から私はホテルのコックとして勤め始めた。勤めるに当たってパパは社会人の先輩として父親として心構えを話してくれた。

「職場には自分と相性の良い上司と悪い上司がいるのが分かるようになると思うけど、どちらも必要なんだ。僕も会社で両方の上司に付き合ってきたけど、大体、良い上司と悪い上司には交互に仕えるようになっているみたいだ。良い上司はスキルを身につけさせてくれる。一方、悪い上司は忍耐を身につけさせてくれる。両方にうまく仕えていかないと、職場では生き抜いていけないよ」

「パパ、ためになる話ありがとう」

「久恵ちゃんなら、きっとうまくやっていける」

ホテル勤務は早番の日と遅番の日がある。ただ、早番の日の出勤は朝早く、遅番の日の出勤は昼からでいい。勤務時間は変わらない。

遅番の日は午後11時ごろに帰ってくるが、パパは私の顔を見るまでは寝ないで待っていてくれる。ここのところ遅くなる日は誰かにつけられているような気がしている。

パパにそう言うと、この辺りでストーカーとか不審者のうわさはないけど、帰りは必ず大通り沿いの歩道を歩くようにと言われた。

今日は11時に駅に着いた。歩道を歩いて行くと、誰かが距離を置いて後ろを歩いてくる。大通りを渡ると、後ろも大通りを渡った。やはり一定の距離を保って後ろを歩いて来る。なんだか気味が悪い。

すぐにパパに連絡する。パパはやはり起きて待っていてくれた。

「パパ、やっぱり誰かにつけられている。歩くのを早めると早くするし、遅くすると遅くして一定の距離を保っている。怖い。すぐ迎えに来て」

「分かった。今どこ?」

「大通りを渡って、こちら側を歩いて、半分くらいのところ」

「すぐ行くから、落ち着いて」

パパが来てくれる。安心した。早く来てくれないかな。歩みを速めると後ろの人も歩みを速めているみたい。駅から遠ざかるにつれて人が少なくなって、今は私と後ろの人だけになっている。

パパの姿が遠目に見えた。ホッとした。足を速める。もう少しだ。パパに抱きついた。パパはしっかりと抱き締めてくれた。いい感じ。でもパパはすぐに後ろの男に身構えた。

「あれ、山本さんじゃないですか」

「今晩は、川田さん」

「どうしたんですか、そちらはお嬢さんですか?」

「まあ、そういったものです」

「誰?」

「丁度上の階に住んでいる山本さんだよ」

「ストーカーじゃないの?」

「まず、大丈夫だと思う。奥さんもおられるし」

「なんで知っているの?」

「一昨年、マンションの自治会の役員を一緒にしていたから」

「そうなの」

「山本さん、この娘がストーカーにつけられているというので、迎えに出てきました。どうも山本さんをストーカーと間違えたみたいです」

「そうですか。それは申し訳なかったです。この時間ですから、僕もストーカーか何かに間違えられないように、帰りが同じになるとお嬢さんとはいつも一定の距離を取ってあまり近づかないように歩いていました。帰るところが同じだから誤解されたみたいですね」

「速足で歩くと、速足でついてくるので怖かったです」

「僕も早く家へ帰りたかったので、一定の距離が空いていればいいと思って、速度を合わせました。誓ってストーカーなんかじゃないから」

「それなら安心しました。これからは声をかけて一緒に帰って下さい。安心ですから」

「そうします」

勘違いだった。でも万が一のことがあるかもしないから用心に越したことはない。私はマンションの住人とはほとんど顔を合わす機会がないからこういうことが起こるのかもしれない。

故郷の生活では考えられないことだ。お隣さん、町内の人はほとんどが顔見知りだ。マンションの二人だけの生活は誰からも干渉されることなく送れるのはいいことだけど、二人のほかの住人を誰も知らないというのはどうなんだろう。

部屋の戻るとパパにちょっと絡みたくなった。

「さっき、山本さんからお嬢さんですか? と聞かれたときに、『まあ、そういったものです』とか言っていたけどそれはないでしょう。ちゃんと言ってください。誤解されます」

「なんて言えばよかった?」

「管理人さんに言ったように妻ですと。ここでは妻ということになっているのですから、辻褄が合わなくなります」

「でもそうは言えないだろう」

「だったら、正確に義理の姪というべきだったのでは、誤解されます」

「ごめん、今度から気を付ける」

パパは少し反省してくれていたみたいだった。でも、妻とか娘とか言ってもらうのは確かに無理がある。でもほかに言い方があったと思う。
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