パパか恋人かどっちなのはっきりさせて!
25.終電乗り遅れ事件―何回も寝過ごして終電を逃した!
就職してからもう2週間たった。お給料をもらうのは大変なのが良く分かった。学生のうちは本当に楽だった。

幸い職場では皆親切にしてくれる。仕事も教えてくれる。女の子だからかもしれないが、甘えてはいけないことも分かっている。

ホテルのコックさんの仕事は始めに思っていたよりもはるかに大変だった。シフト制で早番、遅番があるし、急に宴会が入って遅くなることも少なくなかった。

休みも週に2日ほどあるけど、不規則でウィークデイが多い。土日に休みのこともあるが、疲れて、昼ごろまで寝ていることが多くなった。

早番の時は、始発の電車に乗って出勤している。遅番では帰るのが終電に近いことも度々だった。新入社員だからそれなりに気を使って早番の時は早めに出勤して、遅番の時は最後まで残っている。

勤め始めると家事は毎日できなくなった。それでも休日にまとめてするようにしているが、疲れて昼頃まで寝ていることが多く、思うようにできていない。

パパはできるだけ家事に協力してくれて、私に過度の負担がかからないように気を使ってくれている。パパが気を使っていてくれるのが嬉しい反面、何もしてあげられない自分にいら立つこともある。

それにすれ違いが多くなり、一緒にいる時間が学校に通っているときよりもずっと少なくなったので、会話ができなくて、寂しくてものたりない感じがする。

私は徐々にピリピリ、イライラしてきているのが分かっているが、なんともならない。それがまたイライラの原因になる。

◆ ◆ ◆
勤めはじめて2週目の土曜日、遅番の日だった。前日も遅番だった。だから朝は起きられなくてゆっくり起きてきた。

「おはよう。お昼まで寝ていていいんだよ。午後から出勤だろう」

「そんな訳にはいかないわ。お昼ご飯の準備をします」

「いいから、休んでいて」

私はすぐに昼食にチャーハンを二人分作った。パパは一口食べると「このチャーハンは実にうまい。どこかの中華料理店よりもはるかにうまい」と言ってくれた。作ったかいがある。

「後片付けは僕がするから」

「私がしますから」

パパにさせないように食べ終わるとすぐに二人の食器を持ってキッチンへ向かう。洗い終わるとすぐに自分の部屋に入った。

パパに褒められて、機嫌を良くした私はすぐに出勤の準備を始める。もう少しゆっくり出勤しても良いと思うけど、新人だから早めに行くことにしている。

出がけに、明日は非番だから久しぶりに二人でゆっくりできると言うとパパは嬉しそうだった。私も嬉しい。

◆ ◆ ◆
私が遅番の時にはパパは必ず起きて私の帰ってくるのを待っていてくれる。駅まで迎えに行ってもいいと言ってくれるけど、パパも疲れているのにそこまでしてもらうのは申し訳ないので、それは必要ないと言っている。

気が付いたら五反田駅に戻っていた。これで2回目だ。もう終電がなくなっていた。慌ててパパに電話する。まだ起きていてくれると思う。すぐに出てくれた。

「久恵です。今、五反田です。終電に乗り遅れました」

「ずいぶん遅いので心配した。それならタクシーで帰ってきたらいい」

「そうしようと思います」

「タクシーで帰ってきたことは?」

「ありません。タクシーなんてもったいなくて」

「行き先だけど、どう言うか分かっている?」

「東急の雪が谷大塚駅かな?」

「それじゃあ、行き過ぎだ。また、歩いて戻らなくちゃいけない。いいか、中原街道を行って、外を見ていて洗足池駅を過ぎたら注意していればいい。何回か歩いたことがあるからどこを走っているか分かると思う。坂を上ったところ、僕が肩を脱臼してタクシーで降りた辺りで降りたらいい。迎えに出ているから」

「分かった」

大通りのタクシーで降りる場所あたりでパパが待っていてくれた。タクシーを降りて駆けて行って抱きついた。パパはしっかりと抱き締めてくれた。それからゆっくりマンションへ戻った。

「ご心配をかけしました」

「夜遅くまで仕事大変だったね」

「すぐに休みます」

私はお風呂に入る元気が残っていなかった。すぐに休みたかった。お布団に横になると安心してすぐに眠った。そのまま朝までぐっすり眠った。

◆ ◆ ◆
翌日の日曜日、私は物音で目が覚めた。12時になっていた。すぐに部屋を出ていく。

「ごめんなさい。昨晩は遅くなって」

「もう元気になった?」

「ぐっすり眠れたので疲れがとれました」

「食事の用意ができているから食べよう」

「すみません」

食事をしながら、昨夜のことをパパに話した。

五反田に着いたのは11時半過ぎで、まだ電車が何本もある時間だった。ところが電車に乗って目覚めたら蒲田だった。乗り過ごしたのでそのまま待って電車に乗っていたところ、目が覚めたら五反田だった。

今度こそ降りようと思っていたけど、目が覚めたら蒲田だった。本当に今度こそと思っていたけど、目が覚めたら五反田でもう電車がなかった。それで驚いて電話したのだった。

まさか、眠って2往復もしようとは思ってもみなかった。やはり、よっぽど疲れていたのだと思う。

「終電が近い時は絶対に席に座ったらだめだ。眠ってしまい、こういうことになる。僕も飲み過ぎた時に何回かこういうことがあった。この路線は短くていいけど、会社の人で目が覚めたら雪国で雪が降っていたという話もある」

「疲れていたので五反田でも蒲田でも席が空いているので座ってしまいました。それが悪かったと思います。これからは気を付けます」

「疲れているんだね」

「そうかもしれません」

「今日は一日ゆっくりして、食事は僕が作ってあげよう」

「そうさせてください」

いつもなら「私がします」というところだけど、私は食事を終えるとすぐに部屋に引き上げた。昨日の乗り過ごしのショックからまだ立ち直れていなかった。
< 25 / 40 >

この作品をシェア

pagetop