青い夏の、わすれもの。
先生が先に去った後、部長の小宮さんが彼に近付き、一言呟いた。


「お疲れ様...」


部長の後を追って1、2年生が退散する中、3年生は残り、彼にそれぞれの思いをぶつけ始めた。


「ミスは誰にでもあることだって先生言ってたけど、ほんとその通りだと思う」

「大楽、ドンマイ」


クラリネットの子達はそれだけ言うと帰っていったけど、チューバの佐々木さんはカンカンに怒って怒りをぶちまけた。


「いっつもうちらには大きな口叩いてるくせに、今日のは一体何なの?!マジふざけんな!あんたがミスんなきゃ、絶対金賞取れてたから!うち、もうあんたと演奏出来ないわ!3年間の努力全部無駄にされたんだもの!今日で引退するから。定演、死んでも出ないから!」

「ほんと、悪かった。ごめん...」


彼はそう言ったけど、佐々木さんは派手に靴音を鳴らして去っていった。


その後も彼は「残念だった」「ガッカリした」「小心者は自分じゃん」という、心ない言葉を浴びせられた。


「澪ちゃん、行こう」


ユーフォの秋穂ちゃんがそう言ってくれたけど、わたしは首を横に大きく振った。

このまま彼を残して帰るなんてこと出来なかった。


「分かった。じゃ、先行ってるね」

「うん...」


わたしは秋穂ちゃんの姿が見えなくなるまで見送ると、壁にもたれて項垂れる彼の元に歩いていった。
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