青い夏の、わすれもの。
漂う空気の重さに心臓が押し潰されそうになりながらも、わたしは言葉を紡いだ。


「さつまくん...あのね、わたし...わたしね、良かったと思うよ、今日の演奏。だって今までで1番一体感があったし、迫力も疾走感も重厚感もあった。わたしは今日の演奏を誇りに思う」


わたしがそう言うと、彼はぼそりと呟いた。


「軽蔑しないのか?」

「えっ?」


わたしは目を丸くした。

軽蔑?

なんで?

どうして?

そんなのするわけないじゃん。


「あんなミスしたら、佐々木みたいに怒るのが普通だ。それなのに山本は怒りも軽蔑もしないのか?」


怒るのが普通...?

そんなわけない。

ミスしたら人を責める。

そんなの...普通じゃない。

そんなの...間違ってる。


「わたしはさつまくんに対して全然怒りたくもないし、軽蔑もしたいなんて思わない」

「傲りたかぶって、皆を指摘したり、叱ったりしてた人間なんだぞ、オレは。それなのにお前は...」

「わたしは...わたしは神様に怒ってるの!
わたしが怒鳴りたいのは、誰よりも音楽を愛して誰よりも努力して技量も信頼も得てきたさつまくんに、こんな残酷な仕打ちをする神様に怒鳴りたいよ!

どうして...どうして、さつまくんなの?
どうして...どうして、わたしじゃないの?

責められるなら...怒られるなら、そういうのに慣れてるポンコツなわたしの方が適任なのに。どうして?」

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